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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

救急車が来ても救命しないことも……本人の意思が優先される時代

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救急車が来ても救命しないことも……本人の意思が優先される時代

 救急車は人の命を救うために駆けつけます。しかし、救急車を呼んだ家族が、「手当てはいりません」と言い、本人の意思が確認できれば、救急隊員は心肺蘇生をしなくてもいいことになりました。

 これは、東京消防庁が、昨年12月から導入した措置です。まさかと思われるかもしれませんが、心肺停止していた場合、救急隊員は心臓マッサージなどによる蘇生処置をせず、そのまま引き揚げるのです。

 そうして、患者さんは死を迎えます。

心肺停止状態でも延命措置を行っていたが

 なぜ、東京消防庁がこんなことを決めたかというと、最近、救急隊員が現場で迷うケースが多くなってきたからです。たとえば、通報で駆けつけたものの、家族が取り乱していて、「慌てて呼んでしまいました。でも、本人は延命処置を望んでいませんでした」と言われることがあるのです。

 救急隊員が駆けつけた時、心肺停止状態であったとしても、今までの規定では、延命措置を行って、病院に搬送しなければなりませんでした。幸い、蘇生して元気で家族の元に戻れる人もいますが、たとえ蘇生できたとしても脳機能が元に戻らず、植物状態になってしまうケースも多いのです。

蘇生中止の運用ルールを策定

 読売新聞の報道によると、東京消防庁が2019年夏に1か月間行った調査では、心肺蘇生を行った救急搬送816件のうち、患者本人が延命を望まないケースが11件あったといいます。こうしたケースに対応するため、東京消防庁では、蘇生中止の運用条件を決めたわけです。

 その条件とは、(1)患者が成人で心肺停止状態である(2)事前に患者本人が家族と話し合い蘇生を行わないと決めている(3)「かかりつけ医」に連絡し、事前の合意や想定された症状と現在の症状の一致を確認できる……の三つです。

 現在は、死に関しても個人の意思を尊重する時代です。昨年、ポスターが波紋を呼んだ「人生会議」が、じょじょに浸透して、延命治療を望まない人が多くなっています。すでに一部の自治体では、条件を定めて、搬送を中止しているところもあります。ただし、東京のような大都市では初めてのことです。

高齢化で救急車の出動は毎年増加

 高齢社会が進んだ現在、救急車の出動回数は年ごとに増えています。東京消防庁の救急搬送者数は、昨年、過去最高を記録しています。搬送者の半数以上が65歳以上の高齢者です。総務省消防庁によると、17年に心肺停止で運ばれた人のうちの7割が70歳以上でした。

 そこで、救急車を呼ぶケースを改めて考えることが必要です。それまで健康で持病もなく暮らしていた人が、急に倒れたり、苦しみだしたりしたら、これはすぐに救急車を呼んでかまわないでしょう。

 しかし、高齢ですでに持病がある人、入退院を繰り返している人、終末期にある人などで、意思が家族との間、かかりつけ医との間で確認できているケースは、救急車を呼ばない方がいいのです。

亡くなったら主治医に連絡を

 最近は、救急病院でも、医師が家族に「延命措置を望みますか?」と聞き、人工呼吸や気管内挿管をするかどうか事前に確認します。ですので、本人の意思を確認しておくことは本当に大切です。

 早晩、この時が訪れることはわかっていたのに、いざ死に直面すると慌てます。それで、すでに死んでいるとわかっているのに、救急車を呼んでしまうケースがあります。この場合は、まず、主治医に連絡すべきです。

 救急車を呼んでしまうと、救急隊員は死を確認すると警察に連絡します。それで下手をすると「不審死」の扱いとなって検視をすることになります。場合によっては解剖までされることになります。

 主治医の場合、患者さんの容体を理解していますから、死が明白なら、速やかに死亡診断書を書いてくれます。(富家孝 医師)

 

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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1件 のコメント

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救急車や救急医療に暇を作る意味

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

本当に良い事だと思います。 往診とかクリニックでの仕事の場合はありがたいこともありますが、救急車に丸投げ文化が多くの医療人や家庭を壊してきました...

本当に良い事だと思います。
往診とかクリニックでの仕事の場合はありがたいこともありますが、救急車に丸投げ文化が多くの医療人や家庭を壊してきました。
短時間で、医療のあれこれだけでも大変なのに、社会的な問題とかなんとかまで勘案した結論なんて出す方が難しい。
その仕事が少しでも減るのは良い事です。
リフレッシュや再履修の時間が取れればより良い仕事もできるでしょう。

業界再編もゆるゆると進むとは思いますし、医療ドラマも増えてきましたが、人間離れした曲芸や生活のできる医療人が主流ではなく、加えてタフな人材ばかりでもないです。

勿論、救急車やそれに類するものでしか対処できないケースも多々あるでしょう。
交通事故とか切断指などの労働災害とか。
それらに必要なマンパワーを逼迫しないためにも救急医療にまつわる交通整理(慢性期や早めの検査からの定期の手術やお看取りコースへの振り分け)が大事になってきます。
その結果として、医療のどこかで人手が余っても、何らかの仕事がまた発生してくると思います。

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