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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

コラム

第13部 第二次性徴がもたらす、心の変化(上)体が小さく、弱かった息子。真面目で従順だった小学生が一転して。中2男子

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 子どもは小学校高学年から中学生ぐらいになると、第二次性徴が表れ、親離れが始まっていく。そんな子どもの変化に驚き、戸惑う親は多い。

医師は「ガラスの箱で育てるしか…」

 A君は中学2年生の男の子です。

 小学校入学前は体が小さく、熱を出したり、おなかをこわしたり、風邪をひいたりすることもしょっちゅうでした。母親が細心の健康管理を行いながら、大切に、大切に育てられていました。毎日、息子が喜んで食べるメニューを一生懸命に考え、食材にも工夫をこらしました。身に着けるものも、常に肌に良い布地のものを探し、就寝時のマットレスや布団にも徹底的にこだわって、しっかりと熟睡できるように心がけてきました。

 少しでも体調で気になることがあったり、顔色が冴えないと感じたりすると、すぐにかかりつけの小児科に連れて行きました。医師からは「そんなに心配なら、ガラスの箱に入れて育てるしかないね」と笑われるほどでした。

 A君の両親の夫婦仲は、決して悪くはありませんでした。

 ただし、父親は非常に責任の重い仕事をしており、多忙で家庭にいないことが多かったため、母親一人ですべてのエネルギーをA君の子育てに注ぎ、がんばっていました。

幼稚園に行き渋るようになった理由は

 母親がクリニックにやってきたのは、A君が小学校に進学する直前でした。

 理由はA君が幼稚園に行くことを渋るようになったこと。毎朝、いくら声をかけてもなかなか起きず、幼稚園の送迎バスに間に合わないため、母親が車で連れて行っているとのことでした。

 A君は体が小さいだけでなく、少し気が弱いところもあり、幼稚園で友達から突き飛ばされて転んだり、おもちゃで叩かれたりすることがあったそうです。そんなことがあるたびに、母親は幼稚園の先生に「もっときちんと子どもを見てほしい」と電話で抗議をしたり、ときには談判に直接かけつけたりしました。

 ある日、忘れ物を届けに行った母親は、A君が遊んでいたミニカーをB君に奪われて、泣いているところに出くわしました。そのときに、「今、Aが遊んでいるんだから、それを取り上げるのはおかしいよね」と直接B君を叱ったそうです。

 子ども同士のやりとりに、母親が介入した――。それは瞬く間に幼稚園の保護者に広まり、園児たちにも、「A君のお母さんは怖い」と感じさせたようでした。

 A君はまもなく、幼稚園で仲間に入れてもらえず、孤立するようになりました。
 登園を渋るようになったのもそのころです。

 クリニックでこれまでの経緯を話し終わると、「幼稚園の対応の悪さ」「B君の両親の躾」について不満をぶちまけ、「Aは小さいので、私が守ってあげないといけない」と言い切りました。

 私は「小学校に入っても同じようなことがあるかもしれません。そんな時には、お友達に自分で『やめてほしい』と言えるようになるといいですね」と伝えましたが、母親は「話を聞いていただいて、気が済みました。卒園でお友達も代わるので大丈夫です」と言って、少し穏やかな表情になって帰っていきました。

 その後、しばらくクリニックを受診することはありませんでした。

中学生になって、性格が変わってしまった?

 再び、母親が一人でクリニックにやってきたのは7年後のことでした。

 子どもの幼年期に相談に来た親御さんが、思春期に入った頃に再び受診するケースは少なくありません。子どもの変化に戸惑い、どう接したらいいのかについての相談が中心です。子どもの正常な成長過程であるにもかかわらず、その変貌ぶりに驚いてしまい、「病気になってしまったのではないか」と心配する親御さんもいらっしゃいます。

 A君の母親もそのパターンでした。
 中学校に入った息子を見て、「すっかり性格が変わってしまった」と心配になり、「以前のA君に戻したい」とアドバイスを求めて、クリニックにやってきたのです。

 小学生の間、A君は素直で従順な子どもだったそうです。母親の言いつけを守り、早寝早起きで、きちんと宿題も済ませ、勉強も熱心にしていました。友達の間ではやっていたゲームやテレビなどにも、とりたてて興味をもつこともありませんでした。母親に口答えをすることも一度もありませんでした。

 礼儀正しく、近所の人にも好かれていました。先生にも気に入られて、学級委員をすることもしばしばでした。母親は「二重丸」しかない息子の成績表をいつも自分のバッグに入れて、親戚や友達に自慢していました。

 ところが、中学に入ると、A君は大きく変わりました。

 母親に言われても机に向かわず、パソコンで動画を見たり、音楽を聴いたり、気ままに生活することが多くなってしまいました。勉強をするようにと母親が伝えても、うるさそうに自分の部屋の扉を閉めて、籠ってしまうように。

 母親が何かを伝えに部屋に入ると、「うるさい!」「放っておいてくれ」と声を荒らげ、決して言うことをきかなくなってしまったそうです。

 また母親は、パソコンの履歴を調べたところ性的な内容を含むサイトを見ていることを言いにくそうに付け加えました。

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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1件 のコメント

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種々の共依存や環境依存の中で変わる事

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

成長と性格を操作する要素は沢山ありますが、引っ越しや進学、就職、転職に伴うものは複数の要素が絡むので大きな変化をもたらしがちです。 孟母三遷の教...

成長と性格を操作する要素は沢山ありますが、引っ越しや進学、就職、転職に伴うものは複数の要素が絡むので大きな変化をもたらしがちです。
孟母三遷の教えとか転地療法とか、教育でも医学でも論拠に基づいた方法があります。
おそらく、この母親にとって小学生時代の子供が一番扱いやすかったために、心理的な依存も発生しているのでしょう。
そして、自立なり、隠居なりの傾向を示した子供に対して、拒否反応を示しています。
本当に介入が必要なのは、母親より出てこない父親の方かもしれません。
もっとも、この手の親は別の理由があって、表面上そのように見せないこともあり、なかなか難しいものがあります。
忙しいのか、忙しいことにしているのか、診察室だけでわからないこともあるでしょう。

精神科や心療内科における認知や心理社会的背景の読み時には、真実の読み替えや欠けている情報の描出が必要なので難しいですね。
そして、それはしばしば、物理的あるいは心理的メリットが絡むので、医師個人で対応するのは難しいのではないかと思います。
医療側でも、家族側でも修正可能なファクターが多いといいのですが、そうとも限りません。

幸福になるという作業と不幸から逃げる作業は違いますし、さらにそこから生まれた状況下で幸福になる作業と不幸から逃げる作業は違います。
特に、日本経済の右肩上がり時代の中で生きてきた人たちやその子供の成功体験は大きく、それがかえって危険なように思います。
子供たちが様々な契機をきっかけに、なんとか状況を好転させようとしているかもしれないのに。

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