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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援 五島朋幸

コラム

使い慣れた入れ歯は、修理して使おう

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 胃がん手術後、寝たきりになった佐藤治助さん(仮名、92歳)の訪問診療を依頼するファクスがケアマネジャーから届きました。入院先の歯科医の判断で、がんの手術前に残っている歯を全部抜いたため、それまで使用していた部分入れ歯が使えなくなってしまったということでした。

がんの手術前に歯を抜かれた

使い慣れた入れ歯は、修理して使おう

 年季の入った木造の建物には呼び鈴がないのでドアをノックすると、「は~い」と息子の俊介さん(仮名)の声です。「訪問歯科の五島です」と言うと声のトーンが高くなり、「はいはい! ありがとうございます!」と言って引き戸が開きました。「中へどうぞ」と言われて正面のドアを開けると、6畳の部屋に電動ベッドが置いてあり、その端に治助さんは腰掛けていました。やせ細った感じはあるものの骨太のせいか、それほど細い感じはしません。

 「初めまして。五島です」

 「あぁ、こりゃあどうも。お手数おかけしますねぇ」と言って右手を上げます。

 「よろしくお願いします。ところで、今まで使用されていた入れ歯はありますか?」

 「あれ、おい、持って来いよ」と治助さんが俊介さんに声をかけると、俊介さんが「あぁ」と言って部屋を出ていきました。

 「いやね、この前手術の前に、病院の歯医者に見てもらったら『全部腐ってる』って言われて抜かれちゃったんですよ。それで入れ歯が使えなくなっちゃって」

 「そうですか。最近は、口の菌が原因の肺炎などを予防するため、がんの手術前に歯を抜いたりすること多いんですよ」

古い入れ歯はぶかぶかに

 俊介さんが戻ってきました。「先生、これなんですけど」と言って、入れ歯を見せてくれました。割と年季が入っていて、上下とも針金が2本ずつ入っている部分入れ歯でした。

 「あぁ、歯を4本も抜かれたんですね。そりゃあ大変でしたね。この入れ歯の調子はどうだったんですか?」

 「えぇ、特に問題なく使っていたんですが……歯がなくなっちゃって。入れてみたらぶかぶかなんですよ」

 すると俊介さんから「体重が20キロも減ったんだから。先生、新しい入れ歯を作っていただけますか?」と言われました。

 「もちろん。でも、これを直してみましょうか」と言うと、2人が同時に「えっ!」と驚いた顔をしました。

30分で入れ歯の修理を完了

 ま、論より証拠。まずは実践と言うことでさっそく準備を始めました。治助さんの口の中に入れ歯を入れて現状を確認。合わない部分を削り、歯が抜けた部分にはプラスチック補修素材を付け足します。その後、歯ぐきと入れ歯の間にできた隙間を埋めるように、プラスチックを張って、最後に白いプラスチック素材で歯の形になるよう細工をして終了。30分ほどです。部分入れ歯は、上下の総入れ歯に生まれ変わりました。

 「どうですか? 痛いところはないですか?」と聞くと、カチカチかんでみて、「今のところは大丈夫だなぁ」と言います。俊介さんは「手品みたいだねぇ」。

 「まずは、この入れ歯を使ってみましょう。痛みがあれば調整しますし、必要であれば新しく作ることもできます」

 「いやぁ、うれしいよ。今日から使えるなんて」と治助さんは喜んでいました。

長年使った入れ歯はなじんでいる

 入れ歯は歯ぐきの色に合わせたピンク色の土台部分と人工の歯の部分、そしてものによっては金属の部分があります。このピンク色の部分と人工の歯の部分は修理ができるのです。多少痩せたり、数本の歯がなくなったりしても十分に修理ができます。

 訪問すると、多くの方が長年使った入れ歯を使用されています。もちろん新しくすることもできるのですが、長年使ってきて、自分の体になじんでいるものもあります。そんな時は修理して使用できるのはメリットです。かみ合わせにずれが出てきているケースや元々不調だった入れ歯では、新たに作製する方がゴールに近いケースもあります。

 いずれにしろ入れ歯に関しては、修理できる可能性があるということを知った上で、主治医の先生に相談してはいかがでしょうか。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)

歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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