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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

[余命3か月の入居](4)愛犬と駆け抜けた10か月の「老春」 念願通り、チロに看取られ

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 末期がんのため、余命3か月でさくらの里山科に入居した伊藤大吉さん(仮名)は80代後半。愛犬のポメラニアンのチロは10歳(人間に換算すると60歳前後)でした。そこから、2人の「老春」の日々が始まったのです。いえ、2人ではありません。職員もご家族も一体となって、まさに一瞬の老春を駆け抜けていったのです。それは今思い出しても、信じられないような奇跡の日々でした。

本当は散歩嫌いなチロ でも伊藤さんと一緒なら

[余命3か月の入居](4) 愛犬と駆け抜けた10か月の「老春」 念願通り、チロに看取られ

 伊藤さんは入居初日から、 (つえ) をついてチロの散歩に出かけました。それから毎日、チロの散歩は欠かしませんでした。入居後2週間もすると、末期がんによる体の衰弱が進み、長距離を歩くことは難しくなったのですが、それでも車いすをこいで(手で動かして)、散歩に行きました(写真)。もちろん介護職員が付き添っていますので、チロのフンの回収などは問題ありません。入居後6か月が過ぎた頃には、車いすをこぐことも難しくなりましたが、それでも職員に車いすを押してもらい、短い時間ですが、ホームの庭(ドッグラン)をチロと散歩していました。

 そうやって伊藤さんは、さくらの里山科で暮らした10か月間、ほぼ毎日散歩に行っていたのですが、実はチロは散歩があまり好きじゃなかったんです。伊藤さんが体調が悪い時や、外出している日などは、職員がチロを散歩に連れて行っていたのですが、チロはちょっと歩くとすぐ帰りたがるんですよ。チロは、大好きな伊藤さんと一緒の散歩だから、喜んで歩いていたんですね。そしてチロとの散歩は、末期がんの伊藤さんの体力を支える貴重な運動になったと思います。

喫茶イベントでも、ひざの上に

[余命3か月の入居](4) 愛犬と駆け抜けた10か月の「老春」 念願通り、チロに看取られ

 毎週火曜日の午後には、ホームの1階にある多目的ホール(地域交流室という名前です)で、職員が交代で店員役をつとめる喫茶店イベントを行っており、喫茶山科と名付けています。伊藤さんは、この喫茶山科に行くのを楽しみにしていました。私たち自慢の、一杯ごとに豆をひくコーヒーサーバーマシーン(週に1回の喫茶店イベントのためだけに導入したものです!)で入れたコーヒーが大好きだったんです。

 ちなみに、介護の世界では、高齢者はお茶が好きで、コーヒーや紅茶は好まないという誤解があります。私たちもそれにとらわれていて、喫茶山科の開始直後はコーヒーを軽視していて、インスタントを使っていました。ある時、職員が思いつきで自分のコーヒーメーカーを自宅から持ってきてくれて、それで入れてみたんですね。そしたら、大勢のご入居者様が大喜びして下さったんです。要介護状態にある高齢者でも、ちゃんとコーヒーの味がわかるんです。おいしいコーヒーを好まれるんです。「それならばっ!」ということで、一杯ごとに豆をひく本格的なコーヒーサーバーマシーンを導入したんです。

 伊藤さんも毎週、喫茶山科にいらして、おいしそうにコーヒーを飲んでいました。そのひざの上には、チロがちょこんと乗っていました(写真)。そうです。伊藤さんは、喫茶山科に行くのも必ずチロと一緒でした。伊藤さんのひざの上でくつろぐチロの姿は、喫茶山科の名物になりました。

ミカン狩り、初詣、サファリパークツアー……

 伊藤さんは、外出行事にも積極的に参加していました。入居してすぐにミカン狩りに参加し、お正月には地元の神社の初詣に行きました。春には、房総半島までフェリーで行くイチゴ狩りに参加し、なんと亡くなる3週間前には、バスで2時間近くかかる富士サファリパークツアーにも参加しました。末期がん患者とは思えないほど、アクティブに活動されていたんです。

 さすがに外出行事の大部分にはチロは一緒に行けませんでしたが、ミカン狩りと初詣は一緒に行きましたよ。車椅子に座ってお参りする伊藤さんのひざの上に、毛布にくるまったチロがちょこんと座っている姿は忘れられません。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里 山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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3件 のコメント

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伊藤さんお疲れ様でした。

オッス。おらオッサン。

チロ。 長生きをし。 生きて生きて長生きをして、それから御主人様の所に行き。 御主人様は、ちゃんと待っていてくださるから。 話す事を、思い出を沢...

チロ。
長生きをし。
生きて生きて長生きをして、それから御主人様の所に行き。
御主人様は、ちゃんと待っていてくださるから。
話す事を、思い出を沢山作ってから御主人様の所にお逝きなさい。

願わくば、施設の皆様に最後まで笑顔を届けて、元気のままで逝けます様に。

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願いが叶ってよかったです

はな

伊藤さんのシンプルで潔い選択肢に感動しました。 チロちゃんと最期まで一緒に過ごせてほんとうに良かったですね。いつかは迎える最期の時を自分ならどう...

伊藤さんのシンプルで潔い選択肢に感動しました。
チロちゃんと最期まで一緒に過ごせてほんとうに良かったですね。いつかは迎える最期の時を自分ならどうか?残された日々を大切に過ごされた伊藤さんすごいです。さくらの里さんのようなホームが広がりますように。

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どうか、

まる先生

どうか残されたチロが幸せな余生を送れますように。 そして、苦しむことなく天に召されて、伊藤さんと再会できますように。

どうか残されたチロが幸せな余生を送れますように。
そして、苦しむことなく天に召されて、伊藤さんと再会できますように。

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