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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

コラム

重い障害のある子どもの成長を、食でサポート

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 ヨミドクターの読者のみなさま、令和2年初のコラムとなりますが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。この連載は今年5年目に突入し、今回は第80回となりました。今年も月1回のペースで、ゆるっと楽しく書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

「重い障害のある子どもの成長を、食でサポート」

 私の仕事は、在宅医療を受けている高齢者への訪問栄養指導がメインですが、ときどき「障害のある子どもへの栄養指導をお願いできませんか」と電話で問い合わせをいただくことがあります。

 高齢者の要介護者の場合、介護保険制度の中に訪問栄養指導のサービスがあるので、どこの診療所からでも、栄養指導の依頼や指示を受けることができます。一方、小児に訪問栄養指導を行うには、主治医と同じ医療機関に所属する管理栄養士でなければなりません。そういった法律上の問題があり、ご依頼に応えることができず、 悶々(もんもん) としていました。そんな中、母校の女子栄養大学の後輩である管理栄養士の大高美和さんが「NPO法人ゆめのめ」を立ち上げ、重症心身障害児と医療的ケア児のためのデイサービスを開設したことを知り、東京都日野市まで見学に行ってきました。

「今日のおやつはなぁに?」と目を輝かせる子どもたち

 大高さんの運営する「デイケアルームフローラ」では、入浴サービスのほか、給食やおやつを提供します。この事業は「多機能型児童発達支援・放課後等デイサービス」というもので、全国に約400施設あるそうです。

「重い障害のある子どもの成長を、食でサポート」

 デイサービスのすぐ近くには特別支援学校があり、授業が終わるとスタッフが子どもたちを迎えに行きます。デイサービスに着くなり、「今日のおやつ、なに?」とうれしそうに尋ねる男の子。大高さんは「今日は手作りのおやきだよ!」と笑顔で答えます。すかさず「おやきって、なぁに?」と子どもたち。大高さんは、どんなおやつでも、ひとりひとりの「食べる能力」に応じて食べ物の形態を調整して、飲み込みの障害がある子どもにもなるべく同じものを提供しています。みんなが「おやき」を食べているのに、飲み込みが心配だからと、おやきではなくゼリーやヨーグルトを提供するということはしないのが大高さんのポリシー。

「重い障害のある子どもの成長を、食でサポート」

(写真2)作り方はイラストで

 ある2歳の女の子には、ペースト状にしたおやきを味わってもらいました。(写真1)私も味見をさせていただきましたが、ペースト状でもちゃんとおいしい「おやき」の味がしました。女の子は、初めての味に少し驚いたような表情をしていましたが、口から出すなど拒否をする様子はありませんでした。

 作り方は、絵を描くのが得意なスタッフがイラストで説明します(写真2)。

 小麦粉を練って作った「おやきの皮」を看護師やリハビリのスタッフと一緒にこねながら、初めての感触に目を丸くする子どもや、力加減がわからずギュウっと握ってしまう子どもも。皆でワイワイとにぎやかに、おやきを丸めます。そしてフライパンで両面をこんがり焼くと、オープンキッチンからデイルームに香ばしい香りが漂います。

子どもの成長をサポートし、伴走ができる専門性

「重い障害のある子どもの成長を、食でサポート」

 おやつが焼きあがったら、お茶でのどを潤します。よく見ると、コップやスプーンは大きさや形がさまざまで、ひとりひとりの能力に応じたものが用意されています(写真3)。

 食べ物の形態は成長に合わせて変化することもあります。「前歯でかじりとる練習をしてみよう」と、言語聴覚士と一緒に「食べる訓練」を行う日もあります。子どもの「成長」を意識するということは、高齢者に対する栄養ケアとの大きな違いです。昨日できなかったことが、今日できるようになるかもしれません。 誤嚥(ごえん) や窒息のリスクを重視しすぎて子どもが持つ能力を奪ってしまうのではなく、マラソンのコーチのように、励ましたり応援したりしながら伴走し、その時に応じた訓練やアドバイスができる専門性が求められていると感じました。

学校、医療機関、デイサービス、家族の密な連携が鍵

 デイサービスでは、積極的に外遊びも取り入れており、人工呼吸器をつけた子どもも公園へ繰り出します。「子どもたちにいろいろな体験をさせてあげたい」と願う大高さん。

 「子どもが新しいことにチャレンジするときに、大切にしていることはありますか」と尋ねたところ、「障害が重いと、健常のお子さんに比べて圧倒的に“経験”が足りません。食べることや遊ぶことなど、どんなに障害が重くても、子どもらしく楽しい経験ができるように、ご家族や学校、療育センターなどの関係機関の先生方とも密に連携しながら、スタッフ皆でアイデアを出し合うことを大切にしています」と話します。

 大高さん自身も、障害のある娘さんを育てながら仕事をしています。社会的にも、日常生活でも、さまざまな困難が伴うと思いますが、同じように働くお母さん方も、彼女が日々、奮闘している様子に励まされているのではないでしょうか。

 当事者としての思いを胸に秘めながら、「食」や「活動」を通して、障害のある子どもたちに、より豊かな生活を送ってもらおうと悩む姿に、母としても管理栄養士としても、とても大切なことを学ばせていただきました。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

参考文献:
  • 「はじめよう!おうちでできる子どものリハビリテーション&やさしいケア」日本小児在宅医療支援研究会編 三輪書店
  • 在宅新療0-100 2018.6月号 特集「多様性のある社会における小児在宅医療のあり方」 へるす出版
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塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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