なが~く、楽しくお酒と付き合うために 重盛憲司
医療・健康・介護のコラム
近頃、はやりのひとり飲みは、ペースが上がりがちなのでご注意を!
こんにちは。精神科医の重盛憲司です。長年アルコール依存症の治療に携わってきた私としては、皆さんが忘年会や新年会でついつい飲みすぎ、体調を崩したり懐具合が寂しくなったりされていないかが気がかりです。
さて、お酒好きの人のイメージと言えば、古い歌にもありますが、「正月だから」とか、「ひな祭りだから」などと理由をつけては飲む、要は年中飲んでいるというものだったように思います。
正月は飲むという常識を改めて禁酒に成功
先日、NHKのラジオ番組で「しらふで生きる 大酒飲みの決断」という、作家の町田康さんの本が紹介されていました。自称「大酒飲み」の町田さんが、4年前の年末、禁酒を決意するのですが、「例年酒びたりになる正月をどうやって乗り切るか」という問題に直面し、彼がとった作戦が非常に興味深いものでした。「正月などというものは、しょせん暦の上のことでしかない。それが証拠に、犬や猿には正月はない。正月はなかったことにしよう」と考え、普段通りの生活を送ることで、無事にお酒を飲まないで年を越したそうです。
これは、「正月はめでたい特別な日だから、お酒を飲んで祝う」という自分の中で作り上げた「常識」を改め、「正月は特別な日ではないので、お酒を飲む理由もない」という新たな“常識”を獲得することで禁酒を成功させたそうです。精神科には、自分の中の認知の仕方を改めていく認知療法という精神療法があるので、「なるほど」と感心しました。
職場の飲み会は、いつもと違う姿に接する利点もあったが……
何かと理由を見つけてはお酒を飲みたい、古いタイプの酒飲みとは違い、近年の若者はあまり飲み会に参加したくないという人が増えているようです。特に、職場で行う飲み会は「つまらない」とか、「古いタイプの付き合いを強制される」などの理由で敬遠されがちです。
元来、職場などのコミュニティーで行う飲み会には、お酒を飲んでリラックスすることで疑似的な「非日常」を作り、普段とは異なるコミュニケーションを生み出すという目的がありました。その結果、仕事という「日常」ではうかがい知ることのなかった、同僚や部下、上司の違った側面を垣間見ることとなるのです。
人間は、よく知らない相手には警戒心が働き、負の感情を抱くことが多く、旧知の間柄になると多少の欠点も大目に見ることができるようになるという傾向があります。職場での人間関係は、作業能率に影響しますので、お互いのことをよく知ることが生産性の向上に寄与します。もちろん限度というものがありますので、毎日終業後に飲みに行けば良い職場になるかというと、必ずしもそうとは言い切れませんが。
個食やひとり飲みが当たり前に
家族がバラバラに食事をとることを指して、「個食」という言葉があります。家族で食卓を囲んで、和やかに団らんするという、古き良き日本の家族像が崩壊しつつあるという論旨で使用された言葉でした。現在では、すでに個食は当たり前のものとして定着し、家族のありようも時代とともに変化しています。
お酒の楽しみ方についても、同じようなことが言えるのではないでしょうか。職場などの飲み会を嫌い、ひとり飲みにシフトしているのかなと思います。生活様式や家族の在り方、働き方などは、時代とともに変化しているわけですから、職場の飲み会の持つ役割も変化しているのでしょう。仕事上必要な連絡も、社内LANを経由してパソコンで行うような職場であれば、職員同士の関係性も変わってきているでしょうし、就業時間外の飲み会は不要という意見が出るのももっともです。
しかし、どんなに働き方が変化しても、ストレスは同じようにかかりますし、疲労も蓄積します。お酒の持つ効果の一つ、「リラックス」を期待して、一人缶チューハイを飲むということもあるでしょう。疲れ切って帰宅して、部屋にこもってSNSに没頭するという姿には、なんだか寂しい感じがしてしまうのは私だけでしょうか。
ひとり飲みは、飲み会などでコミュニケーションをとりながら飲むよりも、ハイペースになりがちです。飲み会であれば、定番のビールやサワーなど、比較的アルコール度数の低いもので乾杯し、徐々にピッチが上がっていって……というのが一般的ですが、ひとり飲みの場合、手っ取り早く酔うためにアルコール度数の高いものを選びがちです。そういう需要にこたえて、コンビニなどには飲みやすいストロング系のチューハイが並んでいます。
ひとり飲みの際には、アルコールが依存性薬物であることを認識し、適量や自分のペースを守ってお酒を楽しむようにしましょう。(重盛憲司 精神科医)
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