明るい性の診療室
妊娠・育児・性の悩み
婦人科デビュー
大川玲子(婦人科医)
以前雑誌の取材を受けた時、「婦人科デビュー」という言葉を知り、女性が初めて婦人科を受診するときの感じをよく表していると思いました。デビューという言葉で思いつくのは芸能界や文壇など華やかなイメージの分野ですが、「公園デビュー」のように「いつかはしなければならないが、少々気が重く、何かしら勇気が要る行為」という意味合いも持つようです。
女性にとって婦人科での診察はおっくうな体験ではないでしょうか。特に初めての受診は、友達から聞いた情報などがあっても緊張すると思います。
婦人科での診察で代名詞にもなっているのが「内診」です。子宮、卵巣、膀胱、直腸などがある骨盤内部と腟を触診することをいいますが、診察器具も含めて性器への挿入を恐怖と感じる人もいるようです。実際、婦人科での診察がトラウマになり、診察どころか「挿入障害」の原因となってしまう場合もあります。
婦人科医から見てではありますが、女性として診察を受けた経験も含めて、婦人科の診察を解説し、安心して受診する助けになればと思います。
医師と患者を隔てるカーテンは必要か
まず、婦人科でよく見られる診察の流れを説明したいと思います。まずは下着(ショーツ)をとって診察台に座り、開脚し、医師が性器を診察できる体勢をとります。医師の目の前に性器がある状態で、診察と思わなければ恥ずかしい姿勢です。
多くの婦人科では、患者さんのおなかの上にカーテンを下げて、医師と顔を合わせないようにしています。羞恥心を軽減する目的だと思いますが、日本独自の方法で、かえって怖いと感じる人もいます。私はカーテンを使わずに診察しています。互いに顔を見て、対話しながら診察する方が患者さんの緊張を和らげると思っています。
外から分かること、中から分かること
外陰はそのまま観察しますが、腟の中は腟鏡という器具を挿入して診ます。鼻腔をのぞくものと同じ形をしていますが、婦人科のものはクスコ式と呼びます。腟内部の視診、分泌物(おりもの)検査、子宮頚がん検診も腟鏡診で行います。通常のMサイズのほか小さい腟鏡もあり、緊張の強い人、子供、萎縮の強い人などに使用します。
骨盤内にある臓器は腟からは見えず、またおなかの上からは触れませんので、内診をします。医師が腟内に指を挿入すると、奥にある直径約3センチの子宮頸部に触れます。これを指先で支えた状態で、他方の手を下腹部に当て、両手で挟むようにして子宮などを触れます。内診によって、子宮や卵巣、腫瘍などを触診します。
妊娠の週数が進むと、子宮や赤ちゃんをおなかの上から触れますが、これを外診と言います。子宮筋腫や卵巣腫瘍も直径10センチ以上にもなると外診で分かります。
近年、超音波診断(エコー)、MRI(磁気共鳴画像装置)、CTスキャンといった体の外から体内を診る画像診断が発達しました。これらは形態の詳しい情報が得られますが、直接触れる診察はなお有意義です。触れた時の硬さ、痛み、可動性で癒着の有無をみるなどは触診でなければ分かりません。
超音波診断は外来で簡単に診られる検査法で、腹部から診る方法と、超音波を発する機器を腟内に入れて骨盤内を観察する方法の腟式があります。腟式による超音波診断は、器具の腟挿入に対し内診と同様に緊張する人がいますが、詳細な情報が得られるため多くの婦人科でこの方法を取り入れています。
不安は事前に医師に伝えよう
上手な診察の受け方は、基本的にリラックスして下腹部や太ももの力を抜くことです。患者さんにとって楽なうえ、医師も多くの情報を得られます。力の抜き方には、腹式呼吸のほか、おなかや太ももに一度力を入れた後、その力を抜く、など色々と方法はあります。
数十年前の婦人科では、「診察のために来たのだから、ちゃんとしなさい」と患者さんに、無理やり診察を受けさせる光景がありました。最近は女性の婦人科医が増えたこともあり、全体的に診察は患者さんに寄り添った感じになってきたと思います。多くの診察室がプライバシーに配慮した設備になっています。
不安が強い時は、事前に医師に伝えておくのがいいでしょう。婦人科医は診察を受けるのが苦手な患者さんがいることを経験的に知っていて、対応してくれると思います。また患者さんの声は診療を変える力になります。
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