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医師が教える「女と男、髪と地肌の話」 田中洋平

医療・健康・介護のコラム

本当は多い「薄毛の進行に悩む女性」。医療的な解決法もありますよ

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 前回、前々回とお話ししてきた男性の薄毛改善には、注射を使った治療もあります。脱毛が進み、頭部がぴかぴかになってしまったような患者さんにも、高い効果が期待できます。とはいえ、私のクリニックでも1回10万円、6回~12回ワンセットという、きわめて高額な治療になります。大勢の方が読む、このコラムにふさわしいかと考えると、医師としてはやや疑問も感じます。

 そこで、今回は、「女性の薄毛」にテーマをシフトしようと思います。

男性以上に精神的ダメージが大きい

 男性の抜け毛・薄毛と同様に、女性の場合も、抜け毛促進のホルモン、ジヒドロテストステロンと毛根周囲の血流低下によって、症状が進行してしまいます。ただ、女性の場合は他にも原因があるようです。まだメカニズムが不明な部分も多いのですが、生活習慣や食事、睡眠やストレスなどが影響しているようです。

 一般的な特徴としては、男性の場合は、おでこから後退、もしくは頭頂部で薄毛の範囲が拡大していくのに対し、女性の場合は、生え際の頭頂部にかけての中央付近で、薄毛が進行しやすいのです。

 男性の専売特許のような薄毛の悩みですが、実は女性でも、30歳前に10%、40歳前に25%、そして80歳になる前には半数以上が薄毛を自覚するとされています。昔のテレビCMでは「髪は女の命」と言われていたように、女性の場合、男性以上に精神的なダメージが大きい悩みになりますよね。

男性の薄毛に効果的な飲み薬は、女性にはどう?

 もちろん、女性の抜け毛・薄毛に対しても、できる医療はあります。遺伝のせいにして、「私の家系は先祖代々、髪が薄いからなぁ……などと諦めてしまうのはもったいないのです。

 男性の治療同様に、抜け毛促進ホルモンの「ジヒドロテストステロン」を作る還元酵素だけをブロックしてくれる「フィナステリド」のような内服薬を女性に使うこともあります。特に、海外では閉経後の女性に使用されることがあるようですが、日本ではあまり一般的ではありません。

 女性の治療にはフィナステリドの代わりに、「スピノロラクトン」という内服薬を使います。これは利尿剤として普及している薬剤です。女性の抜け毛に関与している男性ホルモン「アンドロゲン」の産生を抑制し、さらにその受容体をブロックすることで、薄毛の進行を予防してくれるのです。

 海外では、常用によって様々な副作用が懸念されているのですが、それは1日当たりの使用量が非常に多いから。私たち日本の医療者は、海外に比べて4分の1から8分の1ぐらいの使用量でも、十分な効果が得られることを確認しています。

 医師の指導のもと注意して使用すれば、問題ありません。

 ミノキシジルの内服が大切なのは男性と一緒。毛根周囲の血流低下を効率よく改善できることで、頭皮がやせてしまったり、劣化したりすることを予防してくれます。

 二つの薬剤のコンビネーションで、抜け毛の進行、ヘアサイクルの短縮、薄毛を食い止められます。

 ミノキシジルの内服では、ごくごく少数の男性に見られる、顔のほてり、むくみ、腫れなどの症状は、女性の場合はほとんど認められません。むしろ、血流が良くなり、「冷えが改善した」「指先が温かくなった」など、ポジティブな報告を受けることの方が多いです。

 ただし、男性同様に、頭髪以外の毛髪、特に手の甲や指、胸毛、下腿の毛が増えることがあります。どうしても気になるようでしたら、脱毛レーザー治療をご案内しています。

費用負担は軽くはないけれど…

 東京都在住の20代女性は薄毛の急な進行に悩み、私のクリニックを受診されました。外来でのカウンセリングを経て、2つの内服薬による治療を開始しました。

 3か月ぐらいで、明らかに頭髪が増え、しかも、「髪の毛のハリとコシが復活した」と美容院で言われたと、とても喜んでいました。この患者さんは、頬の産毛が少し増えたため、脱毛レーザー治療も行いました。

 また、13年前には、大阪府在住の60代の女性が、クリニックに来院しました。長年、薄毛に悩んで、それまでにも様々な治療法を試されたそうですが、十分な効果が得られなかったとのことでした。診察で拝見すると、とてもおでこに力を入れて、いつも緊張されている「 眼瞼(がんけん) 下垂症」であることは明らかでした。

 当時はまだ、薬剤による治療を行っていませんでしたので、まずは眼瞼下垂症手術を行いました。その結果、頭痛、肩こり、冷え性などの眼瞼下垂症の様々な症状が取れ、さらに髪の毛もハリとコシが復活し、大変喜んでいました。その後、しばらく受診されていなかったのですが、昨年、再び外来にやってきて、「さらに髪の毛を復活させたい」ということでした。

 今度は、内服薬による治療を開始したところ、半年後には、さらに髪の毛が増え、別人のように若々しいファッションに変身していたので、とても驚かされました。

 なお、保険適用とならない自由診療ですので、医療機関によって費用に違いがあります。私のクリニックでは、スピロノラクトンとミノキシジルの内服薬で、診察料も含め1か月に約2万円をいただいております。決して安い治療費ではありませんが、ご自身の髪の毛、それに頭皮が健全化するので、ウィッグ、カツラ、植毛などのほかの方法に比べて、長い目で見ると、むしろ負担額は軽くなると考えられます。

 一般的には、6か月から12か月で効果を実感できますが、もう少し時間がかかる場合もあります。副作用はほとんどなく、ほとんどの方は安心して使用し続けることができます。

ぜひ、生活習慣の改善も

 女性の薄毛の原因として、男性以上に、毛根周囲の血流低下が影響します。冷え性、ストレス、喫煙などが原因となります。

 ホルモンの影響で薄毛になりやすい男性以上に、生活習慣で改善できるケースも目立ちます。強いストレス、不眠などによる長時間の交感神経の緊張状態、喫煙、スマホやパソコンによる目の酷使なども、頭髪にとってはマイナスに働きます。

 どれも髪の毛への悪影響だけではありません、元気に生活していくためにも、生活習慣には気を付けたいものです。(田中洋平 形成外科医)

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田中 洋平(たなか・ようへい)

 クリニカタナカ 形成外科・アンティエイジングセンター(長野・松本市)院長 新潟薬科大学客員教授、東京女子医科大学非常勤講師。1975年生まれ。

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