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閉じこもりがちな高齢者は回想で元気になる~藺牟田洋美・首都大学東京准教授

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 首都大学東京の藺牟田洋美いむたひろみ・准教授は、対話を通して人生を振り返り、自ら評価する「ライフレビュー」という回想の手法を使い、閉じこもりがちな高齢者を元気にしようと活動してきました。人生を回想することは、高齢者にどのような影響を与えるのでしょうか。藺牟田准教授に聞きました。(クロスメディア部 塩崎淳一郎)

外出しなくなると要介護に陥る危険が高い

――先生のご専門は心理学ですが、どうして回想に関心を持ったのですか。

 私は高齢者の心理学が専門で、1993年に山形大学医学部に着任しました。そのとき、山形県内の家に閉じこもっている高齢者や、外出頻度が極端に減った高齢者を調査しました。

 高齢者の活動は、年齢を重ねることで自然に衰えますが、それでも活発に活動し続ける方と、ガクッと衰える方がいます。男性に多いのは、定年退職後、パタッと外出をせず、人とのつながりを絶つケース。地域のいろんな活動を紹介しても、「なぜ俺が行かなくてはいけないのか。興味がない」と言うのです。

 そうした方は長期的にみると、活動的な方に比べて、要介護の状態に陥るリスクが非常に高い。そうした人たちに接近するツール(手段)が何かないか、と考えました。外出頻度が落ちた高齢者に回想の手法を用いたら効果があるのではないかと思ったのです。

――回想は効果があるのでしょうか。

 閉じこもりの高齢者を対象に人生を回想してもらったからといって、すぐに外出に結びつくわけではありません。ですが、憂鬱ゆううつな状態や、楽しい感情がないときに回想を行えば、感情の起伏が出てきたり、ウツ状態が緩和されたりするのです。

 閉じこもりの高齢者には、外にいる方とトラブルを起こしたり、心の元気さが足りなくなったりする方が多いのです。そういう方に、いきなり外に出ようと働きかけるのは、すごくハードルが高いのが実情です。過去に、高齢者のサークルに足を運んでせっかく地域デビューをしても、「よく来たね」ではなくて、ネガティブな「手荒い歓迎」を受けた経験があり、それにめげて、もう家から出ないということがよくあります。まずは、その方たちのお宅をこちらから訪問して、人生を振り返る回想を共にしたらどうかと考えたわけです。

山形で回想を実践、3割が外出につながった

――山形大学時代に地域で実践した経験を教えてください。

 大学のスタッフ、地域の保健師さんたちが協力してくれ、山形市、村山市の2か所で2300人余りの高齢者を調査の対象としました。まずはその中から、閉じこもりの方たちをピックアップしました。普通は郵送ですと、回答率は3割ですが、96%という驚異的な回収率で65歳以上の閉じこもりがちな高齢者を135人ほど抽出できました。そして、2日間かけて研修会を開いて、ライフレビュー、回想の実践についての理解を深めていただきました。そして、保健師さんや栄養士さん、訪問看護師さんなど様々な方々が地域に出かけていきました。

――回想はどのようにして行ったのですか。

 ライフレビューのプログラムは、週に1回1時間、1対1で、全6回です。幼少期から児童期、青年期、壮年期、そして現在までを6回に分けてお話を聞くのですが、保健師さんたちには一応の目安で、各時期にこのような質問を、という例を幾つか挙げ、それに基づいて自由にしていただきました。回想には「出たとこ勝負」という面があります。小さいときのことを話したがらない方もいるし、青年期だけは絶対に話さない人もいる。そのあたりは柔軟性を持って、高齢者が話しやすい時期をこちらが見立て、そこから話していただく方法をとりました。

 高齢者が、ご自分の人生に即して、ご自身しか知り得ない情報を回想し、整理する。その結果、対人関係を広げ、自己肯定感を高める。そして、死期への不安を軽減する。これまでの生き方でよかったのかを自問し、今ある自分は、つらい過去も含めてこそなのだ、とありのままを受け入れ、それを整理する時間を提供することです。このように、人生の意義をかみしめたり、評価したりする回想の手法が「ライフレビュー」です。

――具体的な成果はありましたか。

 閉じこもりの高齢者と人生の回想をしていくと、相手の方の鬱屈した気分が少しずつ解きほぐされて、「そういえば、以前話した私の職場の同僚が近くにいて、お茶を飲みに来いと言われるけれど、行っていないなあと気が付いた。だから出かけてきた」というようなケースが、たまにあります。全般的に言えば、ライフレビューには、精神の健康面の底上げといった効果があります。山形で閉じこもりがちの高齢者を対象に行ったライフレビューの結果、半年後、1年後の状態をフォローをしたところ、半数まではいきませんが、3割ぐらいの人は外出につながったという成果が上がりました。

 人生の回想は、やり取りが難しいので、重度の認知症の方には難しいとされていましたが、聴く力のある保健師が回想を手がけたケースでは、重度の方でも、4回目ぐらいから見違えるほど落ち着いてきて、保健師の来訪を待ちこがれるようになりました。日章旗を持ち出して、「自分が兵隊だったときにみんなからこんな寄せ書きをもらった」と話すなど、メンタル面や行動面で効果が見られました。この改善は偶然の要素もあるとは思うのですが、「回想の力って計り知れないよね」と、その保健師は話していました。

居場所づくりで社会的フレイルの防止を

――先生は現在、東京都荒川区で活動されています。

 荒川区で傾聴ボランティアグループ「ダンボの会」に5年ほど前から関わっていて、会で区内の一人暮らしのお年寄りの家を80軒ほど回っています。傾聴ボランティアの家庭への個別訪問というのは、全国的にも非常に珍しいと思います。2人1組でご家庭に入るのです。せっかくなので、支援が必要な人にいつかライフレビュー、回想の機会を与えていただきたい、と思っています。

――今後の活動の方向性について教えてください。

 私は今、社会的フレイル(虚弱)に関心を持っています。「フレイル」の枠組みに閉じこもりの高齢者が入っているためです。フレイル予防では身体的なフレイル、心理的なフレイル、社会的フレイルという三つの輪に対する支援がうまく進まないと、要介護の高齢者がどんどん増えていくと考えられています。

 これまで、閉じこもりの高齢者などの支援は、その大変さから見向きもされなかった傾向がありますが、今は社会的フレイルが大きな問題として取り上げられています。人とのつながりがなくなった時に、心も脆弱ぜいじゃくになり、身体も弱っていく。社会的フレイルをまず食い止めることが大切だという考え方です。

――荒川区では回想法を地域で行うなどの活動を行っています。

 社会的フレイルを食い止めるためにも、荒川区でやっているような回想法を用いた居場所作りを広めていくことが大事です。閉じこもりを防ぐため、地域にみんなが集まって回想できる場所を作るのはいい取り組みだと思います。

 荒川区には街のシンボルのような都電も走っていて、最近「都電カフェ」という都電のプレートや電車のシートなどを置いたカフェがオープンしました。そこで回想法を実施する集まりを始めました。若い人から80歳を過ぎた方まで、幅広い年齢層の人が集まります。このような取り組みが荒川区に限らず、広く高齢者の社会的フレイル予防につながればと思います。

藺牟田 洋美(いむた・ひろみ) 首都大学東京健康福祉学部准教授。医学博士。臨床発達心理士。神奈川県横須賀市生まれ。1991年、千葉大学大学院修了。東京都老人総合研究所非常勤、山形大学医学部公衆衛生学講座助手などを経て現職。

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