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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

小児がんのひとつ「神経芽腫」 海外の標準薬が日本未承認 個人輸入する親の葛藤

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20年に及ぶドラッグ・ラグ

小児がんのひとつ「神経芽腫」 海外の標準薬が日本未承認 個人輸入する親の葛藤

 小児がんの一つで、5歳以下の子どもに多く発症する神経芽腫。海外で標準的に使われている薬が、日本では未承認のために使えないドラッグ・ラグの状態が20年も続いている。親がやむなく薬を個人輸入して、子どもに使っているケースも多いという。患者の家族でつくる「神経芽腫の会」共同代表の浦尻みゆきさんは、「親は多くの葛藤を抱えながら、我が子を守りたい一心で未承認薬を子どもに飲ませている。一日も早く、国の承認を受けて使えるようにしてほしい」と訴える。

高リスクのタイプの後治療として

 国立がん研究センターの資料などによると、神経芽腫は脊椎に沿ってある交感神経節や、腎臓の上にある副腎などにできる。小児がんの1割弱を占め、固形がんでは脳腫瘍に次いで多い。悪性度の高いものから、自然に小さくなるものまで様々なタイプがある。

 治療法は、リスクの程度によって手術や抗がん剤、放射線治療が組み合わされる。特に高リスクのタイプには、造血幹細胞移植などを含む治療を行った後の「後治療」として、がん細胞に作用して普通の細胞に誘導する「分化誘導療法」や免疫療法を行うのが欧米では標準治療とされている。

レチノイン酸 日本では未承認

 後治療の分化誘導療法に用いられるのが、「13-cisレチノイン酸」という飲み薬だ。もともとは重症のニキビ治療薬だが、神経芽腫にも効果が認められ、欧米では20年前から使われているという。

 しかし、日本では13-cisレチノイン酸が承認されていないため、使うことができない。このため、親が海外から個人輸入をするなどして使っている例が少なくない。神経芽腫の会が2018年末に会員にアンケートしたところ、33人の回答者の9割近くが使用中または使ったと答えた。

 薬の個人輸入の手続きは素人には難しいことから、実際には医師が手続きを仲介してくれているケースも多いという。アンケートでは「医師が勧める薬をなぜ認可できないのか理解できない」といった意見のほか、「高額のため途中で断念した」「ネットでジェネリックを購入したが内容に不安」「未承認のため副作用が心配」などの声が寄せられた。

娘の再発時に後悔

 浦尻さんの娘(18)は5歳で発病し、治療でいったん落ち着いたものの10歳の時に再発した。「仮にレチノイン酸があっても再発を防げたかどうかは分からないですが、親として手を尽くせなかったという後悔の気持ちがとても強かった」と、振り返る。悩みを抱える親の情報交換の場にと6年前、会をつくった。

 個人輸入で2週間の服用と休薬を半年間続けた場合、20万円近くかかるとの計算もあるが、実際の費用負担はまちまちという。未承認薬のため使用法の定めや医師のきちんとした指導もなく、2年近く使ったという人もいる。浦尻さんも娘の再発後に、1年半続けた。未承認であるため、副作用が起きた場合の不安も大きい。

免疫療法の薬も未承認

 小児の患者数が少ない病気では、臨床試験が難しいことや開発にかかる費用に比べ売り上げが見込めないことが、治療薬の遅れにつながる主な理由だとされる。13-cisレチノイン酸の場合は、もともとニキビ治療薬して開発されたことや海外ですでにジェネリックが出ているほどの古い薬であることも、問題を余計に難しくしている。

 神経芽腫の後治療においては、「抗GD2抗体」と呼ばれる免疫療法の薬が、欧米で数年前に承認された。13-cisレチノイン酸と併用されるが、日本では、抗GD2抗体もまだ承認されておらず、ドラッグ・ラグがさらに広がっている。

未承認薬・適応外薬検討会議へ要望書

 国は、こういったドラッグ・ラグの問題について検討する「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を設けており、神経芽腫の未承認薬については昨年、関連学会や神経芽腫の会が要望書を提出している。

 1月8日、東京・築地の国立がん研究センターで開かれた厚生労働省研究班主催のシンポジウムで、患者の立場を代表して浦尻さんはこう訴えた。

 「昨年夏に開いたセミナーから5か月間に、亡くなった患者さんもいる。なぜ効果があるという薬が使えないのか」「未承認で副作用も分からない薬を我が子に飲ませている親には、多くの葛藤もある。日本で承認されれば、こんな思いをしなくて済むのに。どうすれば、この現状を打開できるのか。お力をお貸しください」(田村良彦 読売新聞専門委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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1件 のコメント

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表の力学と裏の力学について考える

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

日本政府が、その下の厚労省が理由もなく、認めないことはないです。 逆に言えば、表に裏に、その理由を突き詰めて、それに応じた行動を起こすことでしょ...

日本政府が、その下の厚労省が理由もなく、認めないことはないです。
逆に言えば、表に裏に、その理由を突き詰めて、それに応じた行動を起こすことでしょう。
金か、メンツか、全体のバランスか、何も理由なく実行されることはないです。

阪神大震災をお腹の中で生き延びた命が、ポップソングで上位を占めたのに知ったのは最近ですけど、理由がないものはないし、奇跡がないわけでもないです。

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