Dr.イワケンの「感染症のリアル」
身近なインフルエンザや帯状疱疹などから、海外で深刻なエボラ、マラリアなどまで、感染症の予防と治療について、神戸大学教授のイワケンこと岩田健太郎さんが解説します。
医療・健康・介護のコラム
中国で発生 謎の新型コロナウイルス肺炎とは
何が「分かって」いて、何が「分かってない」のか
今回は特別編です。中国で流行している謎の肺炎についてお話しします。
一般的に僕たち専門家は「分かっていること」を説明します。分からないことは、説明できない。当たり前ですね。でも、医学・科学の世界には分からないことは山ほどあるのです。おそらくは、分かっていること以上に分からないことは多いのです。
分からないことが分かっていることより、どのくらい多いのかと言うと、それすらもよく分からないのですが、大事なことは分かっていることと分からないことの区別ができること。何が分かっていて、何が分かっていないかということが理解できること。分かっていないということが分かっているということが分かっていないということが回避できること……って、こんな落語みたいな話をしているときりがないので本題に入ります。
SARS(重症急性呼吸器症候群)流行 2002年~03年
昨年12月以降、中国の武漢で謎の肺炎が流行しています。武漢は中国内陸部、湖北省にある都市で、長江が流れています。59人の方がこの肺炎にかかりました。そのうち7人は重症の肺炎になったそうですが、本稿執筆時点ではこの肺炎による死亡者は出ていません。 国際感染症学会(ISID)が感染症情報を提供するメーリングリスト、ProMEDによると、1月8日時点で8人は回復して退院したそうです(https://promedmail.org/)。
中国で謎の肺炎と言えばSARSが思い出されます。SARSは重症急性呼吸器症候群(Severe acute respiratory syndrome)の略で「サーズ」と読みます。2002年から03年にかけて、中国の広州を中心に流行した肺炎で、これまで知られていなかった新しいウイルスが原因でした。
現在では、このウイルスはSARSコロナウイルスと名付けられています。おそらくはハクビシンのような動物から人に感染したのだろうと推測されています。広州から香港や北京、そしてカナダやドイツなどいろいろな国に飛び火して多くの患者が世界中で発生し、大問題になりましたが、03年夏以降パタリと流行は収まり、その後再流行は起きていません。あれはいったいなんだったのか。ぼくは03年の夏から北京のクリニックで診療をしていたのですが、まーこの、SARS対策は大変でした。
新型のコロナウイルスが原因か
で、武漢の謎の肺炎も「すわ、SARSか」と懸念されたのですが、検査ではSARSコロナウイルスは見つからず。ラクダから感染し、中東や韓国で流行して問題になった中東呼吸器症候群(MERS、マーズと読む。2012年発見)の原因、MERSコロナウイルスも検査で陰性。鳥インフルエンザなど、いろいろなインフルエンザウイルスの検査も陰性でした。
で、 2020年1月8日のニューヨーク・タイムズによると、中国の研究者が新しいコロナウイルスを発見したそうです(https://www.nytimes.com/2020/01/08/health/china-pneumonia-outbreak-virus.html )。
59人の患者のうち、15人から同じウイルスの遺伝子が検出されたとのこと。
「コロナ」というのはギリシア語が語源で、王様などがかぶる冠のことです。ウイルスの表面の突起が冠に見えるからこのような名前が付きました。
コロナウイルスは人以外の哺乳類にも感染することが知られています。コロナウイルスの中でもいろいろなタイプがあり、細かく分類されていますが、人に感染するものとして、これまで知られているコロナウイルスは、そのうち6種類です。うち4種類は「普通の風邪」の原因で、残りの2つが上述のSARSとMERSコロナウイルスです。 ちなみに、中国語では「冠状病毒」というそうです(http://www.chinacdc.cn/yyrdgz/202001/t20200109_211159.html )。
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医師不足とか医師の偏在が言われていますけど、結局、人材も資金も偏っているだけなのと、お役所や大学も名誉や指揮権をめぐって、敢えて整理がつかないというところでしょうか?
一方で、多極化が進む世界における、様々な分野でイニシアチブをとるメリットを考えて、中国でさえCDCが動き始めたというところでしょう。
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