文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

中国で発生 謎の新型コロナウイルス肺炎とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

中国もCDCを設立 一方、日本は……

 地球・世界のグローバル化により、一地域の動物に限局していた微生物が人に感染し、どんどん他の人に広がったせいで、こういう新しいウイルスが見つかるようになったのかもしれません。あるいは、これまでは「謎の病気」で片付けていたのを、専門家たちが「片付けなくなった」せいで発見が相次いでいるのかも。

 2002-03年のSARS流行のときには、中国は感染症の情報を隠蔽いんぺいしており、これが大きな批判を招きました。この反省を受けて中国は感染症情報の詳細な調査と情報公開を原則とするようになり、感染症対策の質も飛躍的に向上しています。H7N9と呼ばれる新型のインフルエンザウイルスやSFTS(重症熱性血小板減少症候群)というダニから感染するウイルス感染症も中国から報告されました。

 感染症対策の専門機関としては米国の疾病管理予防センター(CDC)が有名ですが、 中国も2002年に中国CDCを設立し、数々の感染症対策に取り組んできました(http://ianphi.org//news/2012/ChinaCDCcelebrates.html )。中国CDCの感染症対策力は現在では非常に高く、世界保健機関(WHO)などからも高い信頼を得ています(https://www.who.int/china/news/detail/09-01-2020-who-statement-regarding-cluster-of-pneumonia-cases-in-wuhan-china )。

 ちなみに、CDCは米国や中国のみならず、韓国など多くの国にありますが、いまだにこれがないのが日本です。日本では感染症対策は厚生労働省結核感染症課を中心にやるのですが、文系官僚も医系技官も数年で部署を異動するのが通例で、とても「プロの集団」とは呼べません。臨床感染症対策領域では、日本は世界から大いに後れを取っているのです(他にも色々遅れてるんだけど)。

感染経路や病気の特徴 待たれる解明

 さて、この新しいコロナウイルスもなんらかの動物から感染した可能性があると考えられていますが、どの動物がどのように人に感染を引き起こしたのかは本稿執筆時点では分かっていません。人から人に感染するかもまだ不明です。

 SARSやMERSでは、人から人に感染するウイルスだったために、入院した患者から別の患者や医療者への感染が病院内で起きて大問題となりました(院内感染)。現段階では、この新しいコロナウイルスについて、院内感染が起きたという事例はないようです。

 最後の患者が報告されたのが2019年12月29日。まだ本ウイルスが感染してから病気を起こすまでの時間(潜伏期間)も分かっていませんから、これから新たな患者がさらに発生するのかも不明です。すでに武漢を訪問していた韓国人が肺炎を起こしたことが報道されており、SARSのときのような国外への拡大が懸念されています(NHK報道より。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200108/k10012239181000.html)。が、今後、このような国際的な流行が起きるかどうかも分かりません。

 というわけで、現段階では病気の特徴も感染経路も潜伏期間も治療法も予防法も判然としない武漢のコロナウイルス感染です。これからいろいろな調査結果が公表されて、感染症の特徴が明らかになっていくことでしょう。どういうところが分かっていないかが、おわかりいただけましたでしょうか。(岩田健太郎 感染症内科医)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

iwaken_500

岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

Dr.イワケンの「感染症のリアル」の一覧を見る

2件 のコメント

コメントを書く

いつか・・・

魔王

大変ですね。いつ私たちもこうなるか。わからないですもん。早く終わることを願います。

大変ですね。いつ私たちもこうなるか。わからないですもん。早く終わることを願います。

違反報告

人材や器材の充実はバイオテロや災害の対策

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

医師不足とか医師の偏在が言われていますけど、結局、人材も資金も偏っているだけなのと、お役所や大学も名誉や指揮権をめぐって、敢えて整理がつかないと...

医師不足とか医師の偏在が言われていますけど、結局、人材も資金も偏っているだけなのと、お役所や大学も名誉や指揮権をめぐって、敢えて整理がつかないというところでしょうか?

一方で、多極化が進む世界における、様々な分野でイニシアチブをとるメリットを考えて、中国でさえCDCが動き始めたというところでしょう。
長寿連載の超絶スナイパー漫画とか目にしていれば、未知のウイルスや細菌はワクチンや治療剤、あるいは防護のインフラなども含めて軍事活動の一環に当たるようにも思えるので、たまには景気良く資金が降りてきても良いように思います。
積極的に攻撃を加える行為は憲法に反しますが、人道支援や自衛力としての医療水準の維持は大事だと思います。
仕事は見世物のドラマでもないし、奇跡の期待より準備や根回しが大事です。

留学生や流入移民、LCCも増えていますし、今後も中国やアフリカ、アマゾンの奥地から、どんな微生物や有害物質が発見されるかわかりません。
遺伝子変異を考えれば、感染症のリスクは掛算だとわかります。
血液検査のみならず、CT、MRI、あるいは核医学検査などの器材も含めて、施設や人材の充実は観光立国やカジノ経営の観点も含めて国の重要課題ではないかと思います。
それは、災害時に共有できるインフラも多数あるでしょう。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事