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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

医療・健康・介護のコラム

フリースってナニ? 「羽毛最強説」で不毛な親子ゲンカ…父さんの施設入所(7)

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老健の玄関でどなり合い

 ところが父さんは、私が持ってきたフリースを見るなり「そんな軽いジャンバー(フリースのこと)じゃ、ダメだ。高島屋に行って、羽毛を買ってこい」(父さんの言う「羽毛」はダウンコートのことです)と、どなり散らします。

 いまはさまざまなタイプの防寒着があるにもかかわらず、父さんは、元気なころからダウンコートが最強だと信じていて、その記憶がこの20年余り、上書きされていないのです。

 「軽くても、これは暖かいの! 羽毛は洗濯も大変だし、すぐに老健に帰ってくるんだから、今はこれでいいしょう!?」と、こちらも高熱を出したたー君が心配で気が立っているので、冷静さなどあるはずもなく、老健の玄関で親子ゲンカが勃発です。

美人師長の登場で、態度が一変

 「オレは羽毛が着たいんだ!」「今日はフリースでいいの!」と、羽毛を巡る不毛な言い合いがヒートアップ。そこへ、老健の美人な看護師長さんが通りかかりました。そのとたん、「おっ、これ、軽いけど暖かいな!」と、急にものわかりがよい父さんに大変身。すかさず、「そうなの! 最高でしょ!?」と私が返すと、「おう!」と、父さんはご機嫌に。結果、フリースを着た父さんと無事に病院へ行き、健康診断をすませることができたのです。

 ……父さん、美人さんにカッコ悪いところを見せたくなかったんだね。こっちはその機に乗じて、まんまとフリースを着せることができたけどさ……。

息子の一言に笑ってほっこり

 父さんを老健まで送り届け、冬なのに汗だくになりながら自宅に戻ると、すっかり熱が下がり元気になったたー君とお義母さんが「おかえり~」と出迎えてくれました。

 お義母さんに、老健での親子ゲンカの様子を話していると、横で聞いていたたー君が「母ちゃんとじいじって、お笑い芸人みたいだね~」と一言。私としてはイライラ MAX(マックス) のあのやり取りも、お笑い好きの5歳児には、ネタのように聞こえたみたいです。それを聞いたお義母さんも、「確かにそうね~」と笑っています。

 「父さんのボケは、ある意味で最強なので、ツッコミ担当の私はかなり大変なんだけどな~」とボヤくと、たー君は首をかしげ、お義母さんは苦笑していました。

 たわいもないやりとりだけど、ストレス満載のできごともこうして笑い話にしたら、なんだか気持ちがほっこりしました。大変なことが多いダブルケアですが、時にはこんないいこともあるのです。(岡崎杏里 ライター)

登場人物の紹介は こちら

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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