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心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

【最終回】「都合のいい女」だった28歳女性が適応障害から抜け出すまで…グループ・ミーティングという治療

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 「私がこのグループに参加して1年になります」

 A子さんは、その日のミーティングでこう話し始めた。28歳の女性。「適応障害」の診断で、心療内科の外来を受診し、このミーティングに参加するようになった。

 「最初はちょっと抵抗感があったんです。ここに来ると、何だか本当に病気になったような気がして……。『うつはうつる』って周りからも言われて、何となく怖かった」

 あの頃を振り返って、「かなりすさんでた」とも言う。

 「何度目かのカレシと、ちょうど別れた時期でした。都合のいいセフレみたいに扱われて、すっかりイヤになってた。勤め先もかなりブラックで、深夜まで働かされてたし……。タイムカードを押してからも延々と残業が続くんですよね」

 不眠とイライラがつのって、仕事のミスが重なり、上司から叱責されてすっかり落ち込んでしまった。それでも自分が悪いとは、どうしても思えない。A子さんはストレスからくる強い不安と抑うつ感で外来を受診したのだった。

イラスト:高橋まや

イラスト:高橋まや

「言いっぱなし、聞きっぱなし」が原則

 「あの頃は『幸せになりたい』って、心から願ってました。自分がこんなところに来るのは間違っているとも思ってた。ベテランのBさんやC子さんの言葉にも結構反発してた」

 「確かにA子さんって、最初は随分キツい人だと思ってました」
 と、名前の出たC子さんが、続いて発言した。

 「でも、メンバーのBさんが末期のがんで亡くなったと聞いたとき、一番大声で泣いていたのもA子さんだった。とても素直で、自分の気持ちに正直な人だと思ったんです。『あぁ、こういう人はすぐにきっとよくなる』って感じました」

 「Bさんは、私にとってお父さんみたいな人でしたから」
 と、少し遠い目をしながらA子さんが続ける。

 このグループ・ミーティングでは、「言いっぱなし、聞きっぱなし」が原則。でも、相手への批判や個人的なつっこみでなければ、比較的ゆるいルールで話を進めてよいことになっている。

 「このグループでは、たくさんのことを教えられました。自分だけが不幸で運のない人生だと思ってたけど、そうじゃなかった。みんな、それぞれ大変な人生を背負って必死に生きてるんだなぁと思えたんです。それから毎日毎日、もっと丁寧に生きようと思うようになりました」

 A子さんは1年間、欠かさずに参加していた。このグループで学ぶことは、きっと多かったのだ。

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梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

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1件 のコメント

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自由な生き方の為の不自由の考え方と扱い方

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

色んな意見や状況に触れることで見える立ち位置はあります。 この人の適応障害が良くなっただけではなく、会社や人間との関係が整理された部分も大きいよ...

色んな意見や状況に触れることで見える立ち位置はあります。
この人の適応障害が良くなっただけではなく、会社や人間との関係が整理された部分も大きいように本文からは感じられます。

会社とか他人とか自分の中のこだわりとか修正不能とはいかなくても、修正困難なものは多々存在します。
それを自分や他人の失敗というリアリティから距離感を探る作業ですね。

社会では個人も組織も、都合の良い人間を欲します。
勿論、人間は本質的に私利私欲の塊で、様々な内外の要因と付き合っていかないといけませんが、そういう部分の教育というか社会勉強の部分は難しいですね。

特に日本では減点主義や同調圧力の傾向も強いので、その波に飲み込まれすぎないことが大事になります。

一個人も、自分の人生を経営しているわけなので、考えていく必要がありますが、本文に出てきたようなコミュニティをどう作るかは今後の自治体や企業の課題にもなってくるでしょう。
目に見える仕事ばかりが仕事でもなく、人格でもありませんが、この忙しい社会ではしばしばそれを見失ってしまいます。

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