文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」

医療・健康・介護のコラム

【最終回】「都合のいい女」だった28歳女性が適応障害から抜け出すまで…グループ・ミーティングという治療

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

医師はあくまで「見守り役」

 「そういえば昨年、『ロケットマン』って映画をみたんですが……」

 と、D子さんが別の話題を振ってきた。恋愛依存で苦しんでいた彼女も、最近は元気を取り戻して映画 三昧(ざんまい) の日々だという。

 「有名なミュージシャンのエルトン・ジョンを描いた作品。彼がアルコール依存のグループに参加するところから始まるんです。これって、このグループにも似てるなと思いました」

 その通り。このようなグループ・ミーティングは、一般に「セルフヘルプ(自助)・グループ」と呼ばれている。1935年にビル・Wとボブ・Sの二人によって始められた、匿名性のアルコール依存者の会(アルコホーリクス・アノニマス:AA)がその原型になっているのだ。エルトン・ジョンもアルコール依存でAAに参加し、回復に至った一人である。

 私たちのグループでの約束は、<1>「言いっぱなし、聞きっぱなし」、<2>ここで聞いた話を外ではしない、<3>途中参加、途中退席は自由。発言のスルーもOK。とにかく、「自由で安全な発言空間」を確保することがこの会の方針であり、医師である私は、あくまで「見守り役」として参加している。

今日でこの会から「卒業」します!

 「最近、『ちょっと変わったね』と言われることが多くなりました」
 A子さんが話を再開した。

 「周りからいろいろ言われても、あまりカリカリしなくなった。『ま、いいや』って感じかな? そしたら、生きるのがだいぶ楽になりました。恋愛運も仕事運もちょっと上がってきた気がします。私の求めていた『幸せ』って、本当はそんなことだったのかもしれません」

 ミーティングが終わり、椅子の片付けをしていると、A子さんがそばに寄ってきた。

 「先生にご報告があります。実は、子どもができたんです」

 「それは、おめでとう!」

 「今のカレシとは、うまくやっていけそうな気がします。会社も労基署の監査が入ってから、ほぼ定時に帰れるようになったし、出産前の大事な時期だからって、ムリをしないような勤務にしてもらいました」

 A子さんは確かに、彼女なりの人生を歩めるようになったと思えた。

 「今日でこの会からも『卒業』します。この1年間、本当にありがとうございました!」

 彼女は深々とお辞儀をした。

 「あ、でもまたきっと、いろいろ問題抱えて相談にくると思います。それまで、先生お体大切に。Bさんみたいに、私より先に逝っちゃダメですからね!」

 彼女は笑顔でそう言うと、軽い足取りで出口へと向かったのだった。(梅谷薫 心療内科医)

 *心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」は今回で終了します。

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

20181127-yomusuri-prof200

梅谷 薫(うめたに・かおる)

 内科・心療内科医
 1954年生まれ。東京大学医学部卒。90年から同大学で精神科・心療内科研修。都内の病院の診療部長、院長などを経て、現在は都内のクリニックに勤務。「やまいになる言葉~『原因不明病時代』を生き抜く」(講談社)、「小説で読む生老病死」(医学書院)など著書多数。テレビ出演も多い。

心療内科医・梅谷薫の「病んでるオトナの読む薬」の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

自由な生き方の為の不自由の考え方と扱い方

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

色んな意見や状況に触れることで見える立ち位置はあります。 この人の適応障害が良くなっただけではなく、会社や人間との関係が整理された部分も大きいよ...

色んな意見や状況に触れることで見える立ち位置はあります。
この人の適応障害が良くなっただけではなく、会社や人間との関係が整理された部分も大きいように本文からは感じられます。

会社とか他人とか自分の中のこだわりとか修正不能とはいかなくても、修正困難なものは多々存在します。
それを自分や他人の失敗というリアリティから距離感を探る作業ですね。

社会では個人も組織も、都合の良い人間を欲します。
勿論、人間は本質的に私利私欲の塊で、様々な内外の要因と付き合っていかないといけませんが、そういう部分の教育というか社会勉強の部分は難しいですね。

特に日本では減点主義や同調圧力の傾向も強いので、その波に飲み込まれすぎないことが大事になります。

一個人も、自分の人生を経営しているわけなので、考えていく必要がありますが、本文に出てきたようなコミュニティをどう作るかは今後の自治体や企業の課題にもなってくるでしょう。
目に見える仕事ばかりが仕事でもなく、人格でもありませんが、この忙しい社会ではしばしばそれを見失ってしまいます。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事