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山中龍宏「子どもを守る」

 子どもは成長するにつれ、事故に遭う危険も増します。誤飲や転倒、水難などを未然に防ぐには、過去の事例から学ぶことが効果的です。小さな命を守るために、大人は何をすればいいのか。子どもの事故防止の第一人者、小児科医の山中龍宏さんとともに考えましょう。

妊娠・育児・性の悩み

「誤飲に注意」と話した1時間後に「ボタン電池を…」 親を責めても事故は減らない…過去事例から学ぶ

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「新しい環境」「新しい製品」が新しい事故を

 人は、「生活機能が変化する」ことによって事故に遭遇しやすくなるのです。子どもは、昨日できなかったことが、今日できるようになります。昨日まで寝返りを打てなかった子どもが、今日、寝返りを打ってベッドから転落して頭を打つのです。高齢者は、昨日までできたことが、今日できなくなります。昨日までは足が上がっていたのに、今日、足が上がらずに段差につまずいて転倒して骨折するのです。すなわち、子どもは発達するから、高齢者は退行するから事故に遭遇しやすいのです。

 子どもの事故は、「世界で1件だけ」ということはありません。必ず複数件、同様な事故が発生します。子どもの生活に「新しい環境」や「新しい製品」が出回ると、必ず新しい事故が発生します。

事故予防は行われていない

 子どもの事故の現状をデータで見ると、同じ事故が同じように起こり続けています。東京消防庁からは救急搬送された日常生活事故(全年齢:年間に約14万件)、日本スポーツ振興センターからは学校管理下の災害共済給付(年間に約100万件)、日本中毒情報センターからは受信報告(年間に約3万件)などのデータがあります。これらは、前年のデータをコピーして今年のところに貼り付ければ、ほぼ今年のデータに重なるという状況が続いています。すなわち、事故の予防は行われていない、行っていると思っていても効果がない、ということです。また、毎年のデータがほとんど変わらないということは、どんな事故が起こるか、よくわかっているということでもあります。

 これまで、事故は「偶発的に、ランダムに起こる」と考えられ、けがを負うのは「運が悪い」、あるいは「不注意のため」とされてきました。事故が起こると、「あってはならないこと」「周知徹底」「注意喚起」「安全管理を徹底」「再発防止に努めたい」などの言葉が使われるだけでした。何か言いさえすれば、対策をしている、自分の責任は果たした、ということでしょうか?

 とはいえ、すべて無為無策かというと、そうではありません。交通事故に関しては、交通事故総合分析センターから報告されていますが、ほぼ毎年、発生件数、死者数、負傷者数は減少し、10年前に比べて半分以下になっています。労働災害の発生数も、ほぼ毎年減少しています。これらの分野は、交通安全基本計画や労働災害防止計画として5年ごとの目標値を掲げ、予防計画を立て、実態を把握して分析し、どうしたら目標値を達成できるかを検討し、そのための具体的な対策を立てているのです。子どもの事故に関しても、同じシステムで取り組まねば解決できないのです。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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1件 のコメント

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事例の解析と次善策

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

ボタン電池ができる前から、子供の誤飲も消化管穿孔もありました。 一方で、ボタン電池の事故が発生してからも、ボタン電池はありました。 それは何故で...

ボタン電池ができる前から、子供の誤飲も消化管穿孔もありました。
一方で、ボタン電池の事故が発生してからも、ボタン電池はありました。
それは何故でしょうか?

そんな事を掘り下げることで、事故の発生率や重症化は減らせるのかもしれないですね。

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