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妊娠・育児・性の悩み

1歳を過ぎたら夜間の授乳はやめたほうがいいの?…虫歯リスクと母乳のメリット

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「食べ物の残りかす+母乳」がリスク?

 この点に関してヒントになる日本の研究4)があります。その研究は、母乳に含まれる乳糖をミュータンス菌(虫歯の原因として代表的な細菌)と混合して調べた結果、乳糖だけではほとんど虫歯の原因となる酸が産生されず、乳糖が他の糖質と混ざる場合に酸が産生されたと報告しているのです。つまり、母乳以外の食べ物を口にするようになった子どもでは、授乳そのものではなく、食べ物の残りかすなどで口の中に様々な糖質が混じり合っている状況こそが、虫歯につながるのでは、というわけです。

 以前ご紹介した「子どもの歯と口の保健ガイド」5)でも、この点に丁寧にページが割かれています。そこでは「母乳そのものは虫歯の直接原因ではないが、 口腔(こうこう) 内ケアが不十分でプラークがたまり、母乳と食物 残渣(ざんさ) が口腔内にあると虫歯リスクが高くなる」と記載されています。

母乳育児は感染、肥満予防につながる

 母乳育児を継続することには、多くのメリットがあります。「中耳炎や気道感染症にかかりにくくなる」「小児期の肥満のリスクを下げる」などで、これは米国小児科学会でも強調されています6)。日本小児科学会も08年に、母乳を推進することは小児科医の責務であると宣言しており7)、私もそう考えています。

 ここまでの話をまとめると、ポイントは二つです。まず、「1歳を過ぎてからの夜間の授乳」は、「虫歯のリスクを高める可能性があるが、それは、不十分な口腔ケアで食べかすが残っていることが原因かもしれない」ということ。次に、「母乳育児のメリットは多くあるので、できれば続けたい」ということです。これらを踏まえると、虫歯対策として大事なのは夜間授乳をやめることではなく、「口腔内のケアをしっかり行うこと」ではないかと考えます。

乳歯が生えたら口腔ケアを

 夜間授乳は虫歯のリスクがあることを理解した上で、もっとも大切なことは、食後(特に夜)に口腔ケアを行ったり、早めに歯科受診をすることです。乳歯が生え始めたら、保護者によるガーゼ磨き、1歳を過ぎて 乳臼歯(にゅうきゅうし) (奥歯)が生えてきたら、保護者による歯ブラシによる清掃が勧められています8)。「子どもの歯と口の保健ガイド」に記載されている具体的な方法をご紹介します。

  • 上の前歯が生えたら、離乳食を与えた後に、指に巻いたガーゼや綿棒で歯をきれいにする。1歳を過ぎたら、離乳食後、丁寧に歯を磨く。毎回磨くのが難しければ、夕食後にしっかり磨き、それ以外の食事の時は水などで口をすすぐ。
  • 1歳以降に母乳を継続する場合には、食物残渣に母乳が加わることで虫歯のリスクがとても高くなるため、歯の清潔に特に気を配る必要があり、一度小児歯科を受診して歯の検診を受ける。

出典:「子どもの歯と口の保健ガイド」5)より一部改変

 今回は、授乳と虫歯について触れました。子育て中は、いろいろとアドバイスされ、かえって混乱してしまう保護者の方も多いのですが、医学的な文献をご紹介することで、皆さんの安心な子育てのお役に立てればと思っています。(坂本昌彦 小児科医)

参考文献:
  1. 三藤聡.尾道市における乳幼児のう蝕有病状況に影響を与える生活・環境要因について.口腔衛生学会雑誌.2006;56:688-708.
  2. Karen Glazer Peres, Gustavo G.etal. Impact of Prolonged Breastfeeding on Dental Caries: A Population-Based Birth Cohort Study. Pediatrics. 2017 Jul; 140(1) doi: 10.1542/peds.2016-2943
  3. R.Tham,G.Bowatte,etal.Breastfeeding and the risk of dental caries: a systematic review and meta-analysis.ActaPaediatr2015 Dec; 104(467): 62-84.
  4. 佐藤恭子.グルカンバイオフィルムモデルにおけるミュータンスレンサ球菌の酸産生.小児歯科学雑誌 45(3): 412-418, 2007.
  5. 小児科と小児歯科の保健検討委員会.子どもの歯と口の保健ガイド第2版,2019.
  6. American Academy of Pediatrics:Benefits of breastfeeding.(参照2019-12-22)
  7. 横田俊平.日本小児科学会マニフェスト.日児誌 2008;112
  8. 井上美津子.う歯と授乳・離乳.小児内科.2018;50:140-143.

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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