文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

ブルセラ症 海外での動物への接触には要注意

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

報告義務ある4類感染症 抗体検査は難しく

 というわけで、基本的には抗体検査で診断することが多いブルセラ症ですが、これがちょっとやっかい。ブルセラ症は感染症法における4類感染症に属していて、全例報告義務があるのですが、そのくせ抗体検査がやりづらいのです。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/513-brucella.html

 一般に病院でオーダーできる抗体検査はB. abortus とB. canis のみ。B. melitensis とsuis は検査できません。羊、ヤギ、豚と接触がある患者の不明熱の場合は、保健所とかに相談する必要があります。報告義務のある感染症は検査体制が完備されていないと困るんですけどね。

 血液や骨髄の培養検査で菌を発育させることも可能です。ただし、事前に抗生物質が入っていないことが肝心です。抗生物質が入ってしまうと培養検査で菌を見つけるのはとても難しくなるからです。熱のある患者に診断無しで「とりあえず」抗生物質を使っちゃうケースは枚挙に (いとま) がないのですが、やはりきちんと正しい診断をしてこそ、正しく治療ができるのです。

 ま、とはいえ、ぼくもこのあいだ娘が熱を出したときはとても心配になり、「やっぱ抗生物質を飲ませようか」とかついつい思っちゃいました。身内の病気は客観的に判断しにくくて、迷いが生じてしまうのです。というわけで、「熱が出たら抗生物質」の気持ちもよく分かるのですが、ここはじっと我慢。みだりに「とりあえず」の抗生剤はご法度です。

抗生物質を6週間投与

 治療については諸説あるのですが、現在多いのはテトラサイクリン系の抗生物質と、注射薬のアミノグリコシド系の抗生物質を併用します。具体的には、ドキシサイクリンとストレプトマイシン(ストマイ)を使うことが多いです。だいたい、6週間くらい治療します。6週間も抗生物質を使う感染症は比較的少数派に属するのですが、ちゃんと治すためにはこれが大事です。

 海外に行ったときは、あまり動物には触らないでほしいなー。ラクダから感染する中東呼吸器症候群(MERS)とか、猿から感染するBウイルスとか、いろいろあるのです。Bウイルス感染は最近日本でも発生したので、ぼくもこの連載で取り上げようと思っていましたが、国立国際の忽那先生に先を越されたぜ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20191128-00151462/

参照
John E.Bennett, Raphael Dolin, Martin J.Blaser, Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases E-Book. Elsevier Health Sciences.

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

iwaken_500

岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

Dr.イワケンの「感染症のリアル」の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

雑な診断と丁寧な診断の住み分け

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

世のお父さん医師は大変ですが、きちんと診断治療って、TPOも含めて案外難しいですね。 器材や薬剤だけでなく、患者やスタッフの気分や理解による診療...

世のお父さん医師は大変ですが、きちんと診断治療って、TPOも含めて案外難しいですね。
器材や薬剤だけでなく、患者やスタッフの気分や理解による診療の事実上の制限は大きいものです。
健診でも、上位の機器があったら診断が覆えうるケースにたまに出会いますが、本人が納得している状況を動かすのは難しい部分もあります。

自分のやっている医療の精度や限界はよく考えるべきで、諸々の事情で診断的治療で雑にやってても治る疾患でなかった場合のオプションはいつも持つ必要があります。
逆に、治れば、診断治療が雑でもいいという場面があるというのも残念ながら受け入れざるを得ない真実です。
毎回ブルセラを疑ってられません。

ブルセラと試しに検索すると上から20件はブルセラ症のサイトがヒットしました。
一方で、WIKIPEDIAではブルセラ症とのプライオリティは違うみたいです。
かつて、SNSで有名漫画家さんにも助言させていただきましたが、こういうSEO対策を考えるのは楽しいですね。
有益な記事も読まれなければ意味がありませんし、工夫も大事です。

さて、こんなところに書かなくても、学生さんが調べてくれそうですが、B.melitensisですが、Meliteで検索するとWIKIPEDIAでマルタの古代都市名と検出されました。
人命、地名、歴史的経緯から命名されることが多いので、たぶんそうでしょうが、気になる場合は、成書や専門家、学会などで確認ですね。

改めて、時間も能力も有限な中で、どこにウェイトを置くかも専門家の生き方の技術で、僕ら一般医で解決不能な症状は問診で渡航歴などを再確認し、専門家に引き渡すべきですね。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事