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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

ブルセラ症 海外での動物への接触には要注意

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地中海熱、マルタ熱、クリミア熱などと呼ばれ……

ブルセラ症 海外での動物への接触には要注意

 「ブルセラ」でネット検索すると、あまりオススメできないサイトがたくさん出てくるのですが、それは今回の話とは関係ありません。

 ブルセラ症は Brucella という細菌が起こす感染症です。Brucella というのは、発見者の軍医、デビッド・ブルース(David Bruce)さんの名前を冠しているのです。この病気はむかーしからあって、発生していた地域に応じて「地中海熱」とか、「マルタ熱」とか、「クリミア熱」とか呼ばれていましたが、20世紀になって「ブルセラ症」で統一されることとなりました。

 ブルセラ属にはいろんな種類がありますが、人間に病気を起こすのは主に四つ、B. melitensis、B. abortus、B. suis、B. canis です。覚えられない? B. abortus は牛の流産、つまり abortion を起こす菌なので、この名前が付きました。主に牛からの感染になります。B. melitensis は羊やヤギからの感染、B. suis は豚、B. canis は犬からの感染がメインです。suis は豚って意味で、canis は犬って意味なので、これもそのまんまですね。melitensis だけ語源が分かりませんでした。だれか教えてくだされ。

ほとんどは海外からの輸入例

 頻度としても多いのが B. melitensis、次いで B. abortus、それから B. suis となります。B. canis は比較的珍しい。とにかく、ブルセラ症は動物から感染する病気だということです。ここが肝心。患者さんと話をするときは、動物との接触歴が重要になります。

 ただし、日本国内にいるブルセラ菌はB. canis のみと考えられますので、ほとんどが海外からの輸入例になります。特に多いのは、地中海沿岸から中東、中南米です。日本のような先進国では、おおむねブルセラは駆逐されているので、途上国が主な流行地域ですね。日本では年に数例程度の報告ですが、ほとんどが飼い犬からのB. canis 感染で、あとは海外からの持ち込み症例です。
https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/33/389/graph/t3892j.gif

 臨床症状はぱっとせず、とにかく長く続く熱が特徴になります。一般的な培養検査では見つからないことも多いので、海外渡航歴や動物接触歴で、「ブルセラかな」と当たりをつけて、抗体検査をしないと診断ができません。ルーチンの検査で場当たり的に診断するタイプの医者では診断できないってことで、医者の技量が問われるところです。他にもいろんな症状を起こすのですが、骨の合併症が多いのが特徴で、特に仙腸関節炎、つまり腰骨のお尻のあたりが痛くなるのがブルセラに特徴的です。

報告義務ある4類感染症 抗体検査は難しく

 というわけで、基本的には抗体検査で診断することが多いブルセラ症ですが、これがちょっとやっかい。ブルセラ症は感染症法における4類感染症に属していて、全例報告義務があるのですが、そのくせ抗体検査がやりづらいのです。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/513-brucella.html

 一般に病院でオーダーできる抗体検査はB. abortus とB. canis のみ。B. melitensis とsuis は検査できません。羊、ヤギ、豚と接触がある患者の不明熱の場合は、保健所とかに相談する必要があります。報告義務のある感染症は検査体制が完備されていないと困るんですけどね。

 血液や骨髄の培養検査で菌を発育させることも可能です。ただし、事前に抗生物質が入っていないことが肝心です。抗生物質が入ってしまうと培養検査で菌を見つけるのはとても難しくなるからです。熱のある患者に診断無しで「とりあえず」抗生物質を使っちゃうケースは枚挙に (いとま) がないのですが、やはりきちんと正しい診断をしてこそ、正しく治療ができるのです。

 ま、とはいえ、ぼくもこのあいだ娘が熱を出したときはとても心配になり、「やっぱ抗生物質を飲ませようか」とかついつい思っちゃいました。身内の病気は客観的に判断しにくくて、迷いが生じてしまうのです。というわけで、「熱が出たら抗生物質」の気持ちもよく分かるのですが、ここはじっと我慢。みだりに「とりあえず」の抗生剤はご法度です。

抗生物質を6週間投与

 治療については諸説あるのですが、現在多いのはテトラサイクリン系の抗生物質と、注射薬のアミノグリコシド系の抗生物質を併用します。具体的には、ドキシサイクリンとストレプトマイシン(ストマイ)を使うことが多いです。だいたい、6週間くらい治療します。6週間も抗生物質を使う感染症は比較的少数派に属するのですが、ちゃんと治すためにはこれが大事です。

 海外に行ったときは、あまり動物には触らないでほしいなー。ラクダから感染する中東呼吸器症候群(MERS)とか、猿から感染するBウイルスとか、いろいろあるのです。Bウイルス感染は最近日本でも発生したので、ぼくもこの連載で取り上げようと思っていましたが、国立国際の忽那先生に先を越されたぜ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20191128-00151462/

参照
John E.Bennett, Raphael Dolin, Martin J.Blaser, Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases E-Book. Elsevier Health Sciences.

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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雑な診断と丁寧な診断の住み分け

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

世のお父さん医師は大変ですが、きちんと診断治療って、TPOも含めて案外難しいですね。 器材や薬剤だけでなく、患者やスタッフの気分や理解による診療...

世のお父さん医師は大変ですが、きちんと診断治療って、TPOも含めて案外難しいですね。
器材や薬剤だけでなく、患者やスタッフの気分や理解による診療の事実上の制限は大きいものです。
健診でも、上位の機器があったら診断が覆えうるケースにたまに出会いますが、本人が納得している状況を動かすのは難しい部分もあります。

自分のやっている医療の精度や限界はよく考えるべきで、諸々の事情で診断的治療で雑にやってても治る疾患でなかった場合のオプションはいつも持つ必要があります。
逆に、治れば、診断治療が雑でもいいという場面があるというのも残念ながら受け入れざるを得ない真実です。
毎回ブルセラを疑ってられません。

ブルセラと試しに検索すると上から20件はブルセラ症のサイトがヒットしました。
一方で、WIKIPEDIAではブルセラ症とのプライオリティは違うみたいです。
かつて、SNSで有名漫画家さんにも助言させていただきましたが、こういうSEO対策を考えるのは楽しいですね。
有益な記事も読まれなければ意味がありませんし、工夫も大事です。

さて、こんなところに書かなくても、学生さんが調べてくれそうですが、B.melitensisですが、Meliteで検索するとWIKIPEDIAでマルタの古代都市名と検出されました。
人命、地名、歴史的経緯から命名されることが多いので、たぶんそうでしょうが、気になる場合は、成書や専門家、学会などで確認ですね。

改めて、時間も能力も有限な中で、どこにウェイトを置くかも専門家の生き方の技術で、僕ら一般医で解決不能な症状は問診で渡航歴などを再確認し、専門家に引き渡すべきですね。

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