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のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行

医療・健康・介護のコラム

ウソも方便!? 主治医を変えたい時には

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どうしてもウマが合わないと感じたら……

 年明けの冷たい空気の街中。年始ということもあり、仕事もさほど忙しくなかったので、夕暮れになる前に会社を抜け出し、ぶらりとのぶさんのカフェにきた。

 のぶさんと気軽に話せるカウンター席が私のお気に入りだ。常連で時々顔を合わせるご婦人の隣の席が空いているので、会釈しながら腰掛け、ブレンドコーヒーを注文した。

 「今年に入ったら先生が別の病院に異動になっちゃって、主治医が変わってしまったんです」

 ご婦人がのぶさんと話をしている。どうやら新しい主治医とウマが合わないようだ。決して医師としての資質や知識に問題があるというわけではなく、「なんとなく」という感じらしい。

 「どうしても合わないなら、主治医は変えていいんですよ」と、のぶさんがさらりと言う。「だって、カフェだって、自分には合わないなと思ったら、もう行かないですよね。どんな医師に診てもらうかはどんなカフェに行くか以上に大切なんだから、どうしてもと思うんだったら、仕方ないですよね。」

外来の曜日が違えば担当医師も

 地域によっては医師不足で選ぶ余地はないかもしれないが、ありがたいことに、このエリアにはいくつかのクリニックや病院がある。

 「同じ病院の同じ診療科には、他に医師はいないですか?」

 のぶさんによれば、たいていの病院などでは待合室などに医師の外来担当表があり、何曜日は何医師の当番という一覧があるそうだ。

ウソも方便!? 主治医を変えたい時には

担当医師の一覧は外来に掲示されている病院が多い

 「私の主治医は月水金。医師はもう一人いて、火木に担当しているようでしたけど……」

 「だったら、簡単。『仕事や趣味の活動のために、火曜日しか通院できないんですぅ。残念ですが』などと言って、もう一人の医師の方にしてみればいいのですよ。同じ病院内なら、あなたの診療データは共有できていますから」

 ウソも方便ということか。

最後の手段? 開示請求したカルテのコピー手に

 「でも、もし、医師が一人しかいなかったら?」

 持病の治療のために、いくつかの病院に通っている母を思い出して、横から口をはさんでみた。

 「少し悩ましいですよね。病気の種類、状況、変えたくなる病院があるかとかにもよりますけど、私ならば……」

 前置きしてからのぶさんの話が始まった。「まずは、カルテ(診療録)の開示請求をするんです」

 なんだそれは?

 カルテの開示請求には保険がきかないために全額自己負担の費用がかかるが、カルテをみれば、その病院での診断や治療の経過などが分かる。主治医に理由を聞かれたら「自分の病気をもっと知りたいから」とでも答えておけばいい。

 「その開示されたカルテを持って、次の病院へ行くのです」

 「でもね」

 話の調子が少し変わった。

 「相手も人間だから、ウマが合わないとかある程度の人間的な部分はやむを得ないし、いい医療者は患者が育てるという考え方や、割り切るという発想もあっていいと思っているんです」

 隣のご婦人も静かに耳を傾けている。

 「実際、大きな病気だったり、治療にスピードが必要だったりした場合、転院するだけでも無駄な時間や医療費がかさむし、そもそも次の病院の医師とウマが合うという保証はありませんよね」

 のぶさんは、自分が身体障がい者であり、根治は見込めないがんの患者でもある。彼自身は、主治医を変えるのではなく、どうしたら主治医とよりよい付き合いができるかを考えるらしい。そのために、自分で症状の経過や治療内容を記録したり、主治医に自分の考える健康の概念を提示したりするということを、これまでにいくつか聞いている。

 ご婦人が細く声を出した。「まだ2回しか会っていないのに、ウマが合わないって決めつけるのは、ちょっと早かったかもね。前の先生がよかったから、つい比較しちゃっていたわ……」

 患者と医師の関係は、結局は人間と人間の付き合い。お互いによりよい関係性を築けるといいなぁ、と私も思う。

 「新しく病院を探しているのなら、また、少し話は違って……」

 さらにのぶさんの話は続きそうだ。でも、今日はもう会社に戻らなければならない時間だ。後ろ髪を引かれる思いで、店を出た。

(鈴木信行 患医ねっと代表)

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

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鈴木信行(すずき・のぶゆき)

患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。


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