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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

無理解な中傷がもたらしたもの?…「眼球使用困難症候群」の苦しみを知ってほしい

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無理解な中傷がもたらしたもの?…「眼球使用困難症候群」の苦しみを知ってほしい

 眼球使用困難症候群。

 今月で終了となる連載コラム「心療眼科医・若倉雅登のひとりごと」には、何度となく出てきたキーワードですが、一般にはまだまだ知られておらず、ほとんど理解されていません。

 文字通り、眼球自体は健常でも、それを自在に使えないいろいろな事態を総称している用語です。この状況は、日常生活では明らかに視覚障害者ですが、日本の身体障害者福祉法では、こうした異常は想定されておらず、福祉のセーフティーネットにかかりません。

 この症候群を持つ方々が、国(厚生労働省)や社会に、こんなに厳しい病気があることを何とか理解してもらおうと、いろいろな場面で訴えています。日々生きていくのでさえ精いっぱいの自分を (むち) 打って、いろいろな手段で訴え続けているのです。 

 私がこの症候群の名付け親でもあることから、私どものNPO法人目と心の健康相談室にも多くの相談があります。最近では「眼球使用困難症候群支援室」を作り、相談だけでなく、当事者たちのそうした社会活動への手助けをする役割も担っています。

 昨年暮れ、「 眼瞼(がんけん) けいれん」という、この症候群のうちで最も多いと思われる病を持つ、29歳の女性が亡くなったとの報告が、同支援室に入りました。

 女性は、かつて、自分の症状を漫画にしてツイッターに投稿したところ、「そんなつらい病気が存在するの?」と反響をよび、投稿3日目で約5万件のリツイートを数え、インターネットのいくつかのサイトでも取り上げられたとのことでした。

 女性は、数か月前、私の外来を訪れた時には元気がなく、目もなかなか開けられない状態でした。漫画のその後の反響を聞くと、

 「あれは、もう削除しました」

 ――えっ、どうして?

 「いろいろ言われまして」

 ――いろいろって、どんな?

 「漫画が描けるのに、障害者なんてありえないとか…」

 女性が、自身の状態を何とかアピールしようと、体調をかばいつつ、時には崩しながらも、少しずつ作業を重ねてようやく完成した過程を想像できない人たちからの、これは心ない中傷と言えないでしょうか。

 目を開けるには、脳からまぶたへの神経信号がしっかりと伝わらなくてはいけません。眼瞼けいれんはその伝達がうまくゆかなくなる病気です。心が沈んでいる時や、体に不調がある時は、症状は一層悪化し、一瞬は開けられても継続できません。

 一般的な話として、どんなによい案でも、無記名で投票すると少なくとも1割は反対意見が出るのが人間社会の常なのだと聞いたことがあります。それでいうと、5万の反響があれば、5千のマイナス意見があってもおかしくありません。仮に残りの4万5千が応援したとしてもです。

 一つの中傷や暴言でも傷つくほどの繊細な人柄がうかがえたこの女性にとって、それはとてもつらかったことでしょう。失意のうちに別れを迎えてしまったとは思いたくありません。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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