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リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

梅宮辰夫さんの死は覚悟の「がん死」なのに、なぜ、死因は「腎不全」?

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梅宮辰夫さんの死は覚悟の「がん死」なのに、なぜ、死因は「腎不全」?

40歳代の梅宮辰夫さん

 12月12日、俳優の梅宮辰夫さんが亡くなりました。速報は「慢性腎不全のため、神奈川県内の病院で死去。81歳」というものでした。この速報の死因「慢性腎不全」を聞いて、おやっと思った方も多いと思います。梅宮さんといえば、がんで闘病生活を送っていることが知られていたからです。娘さんのアンナさんも、そのことをテレビやインスタなどで公開していました。

死因には、直接の死因と元になる「原死因」がある

 しかし、これはおかしいことではありません。死因には、直接の死因と、その死因の元になる「 (げん) 死因」があるからです。私は、これまで数多くの死亡診断書を書いてきましたが、直接の死因と併せて原死因は必ず書くことになっています。

 現在、日本人の死因の第1位はがんです。「平成30年(2018)人口動態統計」によると、1位「悪性新生物(がん)」27.4%、2位「心疾患(心臓)」15.3%、3位「老衰」8.0%、4位「脳血管疾患」7.9%、5位「肺炎」6.9%。となっていて、「腎不全」は8位で1.9%にすぎません。原死因が腎不全なのは、糖尿病などで腎機能が低下して死亡に至ったという事例で、梅宮さんの場合はこれには当たりません。

一昨年から本格的ながん闘病生活

 メディアは速報で、病院などが伝える直接の死因か、遺族から申告された病名を報道します。梅宮さんの場合は、片方の腎臓を摘出し、その後は人工透析を週3回、1回4時間受けていたというので、腎機能の急激な低下となったのでしょう。妻のクラウディアさんが梅宮さんの異変に気付き、すぐに救急車で病院に運んだが間に合わなかったと言います。

 梅宮さんは、昨年9月に前立腺がん、今年1月に尿管がんの手術を受けていました。それ以前、2016年6月に全身にかゆみがあり、白目部分に 黄疸(おうだん) が確認できたため検査したところ、十二指腸乳頭部がんが発覚し、十二指腸と胆のうの全摘手術を受けています。このとき、すい臓と胃の一部も摘出したといいます。つまり、この時点から、本格的な「がん闘病生活」に入っていました。

芸能人、それぞれの死因

 昨年から今年にかけて、次々に大スターが亡くなっています。昨年9月に亡くなった樹木希林さん(享年75)の死因は、「多臓器不全」と発表されました。しかし、原死因は「乳がん」で、希林さんは10年以上にわたり、転移と闘い力尽きました。

 希林さんの夫、内田裕也さん(享年79)は希林さんの後を追うように今年の3月に亡くなりましたが、死因は「肺炎」と発表されました。裕也さんはすでに何度か転倒・骨折し、車椅子生活を送っていましたから、「老衰」と考えていいと思います。

 6月に亡くなった高島忠夫さん(享年88)の場合は、長年、パーキンソン病、心臓疾患などから在宅看護を受けた末に亡くなりましたが、死因は「老衰」と発表されました。

がんによる合併症が直接の死因になる

 直接の死因と原死因が違ってしまうのは、がんなどの場合、闘病生活の中で合併症を起こすことがあるので、それが直接の死因となるからです。「腎不全」「心不全」「多臓器不全」などは、死因ではありますが、病名ではありません。

 病名どおりの死因が発表されたのは、10月に亡くなった八千草薫さん(享年88)でした。「すい臓がん」と発表されました。すい臓がんの場合は発見しにくく、発見されたときはすでに手遅れというケースが多いのです。

 3月に亡くなった萩原健一さん(享年68)の場合は、死因は「消化管間質腫瘍」(GIST)でした。長い闘病生活を続けた末でした。また、7月に亡くなったジャニー事務所のジャニー喜多川社長(享年87)は、「解離性脳動脈 (りゅう) 破裂によるくも膜下出血」で、入院後数日で亡くなっています。統計上の死因は「脳血管疾患」となります。

がん闘病を頑張り抜いて亡くなった梅宮さん

 梅宮さんの場合、「腎不全」に至るこの1年は、がん闘病生活の最後の局面です。人工透析というのは、それをしなければもう生命は持たないので施術されます。非常につらいものです。

 まず、腕などに、動脈と静脈をつなげる手術を行います。この手術で太くなった静脈に針を刺し、1分間に200CC程度の血液を抜いて、その血液から老廃物を取り除くダイアライザーという機械を通し、再び体の中に戻すのが人工透析です。梅宮さんは、最期までよく頑張られたと思います。

覚悟の上の死

 報道を見ていくと、梅宮さんはすでに死を覚悟されていたのは間違いないでしょう。2016年6月のテレビ出演(日本テレビ系「ダウンタウンDX」)で、生死をさまよったことを告白しています。

 その年2月に、風邪をひいて病院に行き、医師から「すぐ入院しなさい」と言われたものの、俳優の安藤昇さん(享年89)のお別れ会に出席するため2日先に延ばしたのです。「その2日間がいけなかった。八つ、合併症が出た」と梅宮さんは言っています。

 8つの合併症とは 肺炎、心不全、腎不全、糖尿病、高脂血症、狭心症、心房細動、高血圧です。入院時、クラウディアさんとマネジャーが呼ばれ「今夜がヤマ」と言われたということを告白しています。

 このテレビ出演後の十二指腸乳頭部がんの手術でしたから、相当、体にこたえたと思います。

死を意識し、考え抜いた末に……

 昨年春、梅宮さんは、38年間暮らした都心のマンションを引き払い、神奈川県真鶴町の別荘に生活を移しました。相模湾が一望できる別荘だと言います。梅宮さんの親友、松方弘樹さん、山城新伍さん、渡瀬恒彦さん、菅原文太さんもみな他界し、「僕の親友は全員死んじゃった。人間死んだら終わりだね」と周囲にもらしていたと言います。

 死を意識し、どう死んでいくかを考えた末の死だったと思います。(富家孝 医師)

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。前新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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1件 のコメント

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歓送の歌

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

生き方も死に方も人それぞれですが、仕事や繋がりは永遠なのかもしれませんね。 特に役者さんは個人の命は有限でも、この時代では半永久的に存在が残りま...

生き方も死に方も人それぞれですが、仕事や繋がりは永遠なのかもしれませんね。

特に役者さんは個人の命は有限でも、この時代では半永久的に存在が残ります。

一方で、個人の意識としては、ここで終わりなんでしょうね。

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