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なが~く、楽しくお酒と付き合うために 重盛憲司

医療・健康・介護のコラム

どうして地位を築いた芸能人が危険な薬物に走るのか……特殊な事情も

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 残念なことに、今年も芸能人による違法薬物使用事件が話題になりました。ピエール瀧、元KAT-TUN(カトゥーン)の田口淳之介、田代まさし、沢尻エリカ……。それまで築き上げた社会的地位や名声をあっという間に失うことになるのに、わかっていても、一度手を出したらやめられないのが薬物依存の恐ろしいところです。また、一度は薬物を絶ったとしても、再犯を繰り返してしまう人が少なくないのも、薬物依存の特徴と言えるでしょう。

 芸能人ばかりが薬物依存になるわけではありませんが、社会的な成功を収めて地位を築いた芸能人が、どうして危険を冒してまで覚醒剤やコカインなどの違法薬物に走るのでしょうか。疑問に思うのは、その理由です。

武道館で喝采を浴びた高揚感が忘れられず……アルコール依存症に

どうして地位を築いた芸能人が危険な薬物に走るのか……特殊な事情も

 私はアルコール依存が専門ですが、アルコールも依存性薬物のひとつ。依存の理由にはそれ以外の薬物とも共通するところがあります。私の患者さんで、アルコール依存症の元シンガー・ソングライターの方がいました。私が、依存症治療の専門機関である神奈川県の久里浜医療センター(当時、久里浜病院)にいた頃の話なので何年も前のことです。

 2人組でフォークソングを歌い、ヒット曲を世に送り出したこともある彼でしたが、引退してディレクターの仕事をしているうちにアルコール依存症になり、久里浜病院に入院したのです。

 ある日、診察室で彼が私に言いました。「一度でも武道館のステージに立って、大勢の観客の喝采を浴びたら、あの鳥肌が立つような高揚感は忘れられるものじゃないですよ」

 おそらく彼は現役を退いた後も、強烈な高揚感や達成感が忘れられず、アルコールの力を借りてそれらの穴埋めをしようとしたのでしょう。入院治療の 甲斐(かい) あって、退院後は断酒を続けることに成功しました。

違法薬物は短い使用期間で精神的な依存を引き起こす

 依存性薬物といっても、アルコールと違法薬物では大きな違いがあります。合法か違法かという点を除いて、一番の違いは、アルコールは安全域が広いことが挙げられます。お酒を飲む多くの人々は、お酒と上手に付き合い、肝臓を壊すこともなく、アルコール依存症に陥ることもなく、一生を終えます。依存症になるためには大量のお酒を長期にわたって飲む必要があるのです。

 一方、覚醒剤などの違法薬物は、アルコールよりもずっと少ない使用期間で、精神依存を形成します。覚醒剤の使用欲求はかなり強烈で抗し難いもののようで、飲酒欲求などとは比べものになりません。現役の芸能人が違法薬物に走るのは、多忙なスケジュールの合間に、手っ取り早く気分をハイにして次の仕事に臨みたいという思いから手を出して、泥沼にはまってしまうのかもしれません。

お酒も依存性薬物だが、上手に付き合えば大丈夫

  アルコールは依存性薬物でありながら、合法的に飲むことができます。テレビではたくさんのコマーシャルが流れ、国は膨大な酒税を消費者から手に入れています。お酒の危険性を理解し、自らの飲酒をコントロールできれば、長く楽しく付き合っていくことのできる飲み物なのです。

 と言っても、長期にわたり大量に飲み続ければ、依存症を招きます。離脱症状、いわゆる禁断症状には、幻覚もあれば、てんかん発作を起こすこともあります。体にも悪影響を及ぼし、肝硬変や末梢神経障害、遂行機能障害、認知症にもなります。忘年会など、お酒を飲む機会が増える時期です。皆さんがおいしいお酒を楽しんで、友人や同僚との楽しいひと時を過ごされるよう願ってやみません。(重盛憲司 精神科医)

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shigemori_prof

重盛憲司(しげもり・けんじ)

心療内科・精神科医 1952年、長野県生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、慶応義塾大学医学部精神・神経科学教室を経て、国立療養所久里浜病院(現・国立病院機構久里浜医療センター)にてアルコール依存症などの治療に携わる。また、厚生省(当時)でアルコール関連問題対策を担当。一方、自身では長年にわたり様々なお酒を愛飲。クラフトビールやシングルモルトウイスキーが近年のマイブーム。趣味は学生時代から続けるアイスホッケーと、自宅近くのマリーナからヨットで海に出ること。現在は洗足メンタルクリニック院長。テレビ番組の出演多数。

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1件 のコメント

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過酷な競争社会の宿命と向き合う為の嗜好品

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

ちょうど、海外のバレエ学校で体型維持の為に喫煙を進めるニュースを見つけました。 過酷な競争社会の中で、食事やデザート、酒、たばこと言った嗜好品の...

ちょうど、海外のバレエ学校で体型維持の為に喫煙を進めるニュースを見つけました。
過酷な競争社会の中で、食事やデザート、酒、たばこと言った嗜好品の意味は重要です。
日本で禁止されている薬物は、中でも危険度が高いものという発想ができます。

日常と非日常のギャップは誰しもありますが、芸術の世界の人は非日常を提供するサービスが日常という問題があり、競争が激しいほどに、上手な息抜きの仕方や擬態の仕方が大事になります。

程度や質の差こそあれ、受験戦争も一緒ですね。
どんどん増えるノルマとの付き合い方だけでなく、休み方や息の抜き方が大事になりますが、競争の中で休めない、あるいは、休むタイミングがわからなくなって、量や質が度を過ぎた嗜好品や生活にのめり込んでいくのかもしれません。

働き方改革の目標の一つもそこにあると思いますが、なかなか人々の意識や生活パターンの変革は難しいものがあります。
全ての職業はロールプレイングの側面もありますが、他人の求める虚像との付き合い方もまた難しいですね。

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