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「続・健康になりたきゃ武道を習え!」 山口博弥

コラム

「武道好きサラリーマンあるある」 ウクライナ外交官の場合

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力をセーブして軽く当てる練習「ライトスパー」

 「じゃあ、ライトスパーやります」

 11月20日の夜8時過ぎ、東京都渋谷区の極真会館総本部代官山道場。道場責任者の赤石誠さんが、集まった十数人の道場生たちに指示し、ライトスパーが始まった。

 ライトスパーは、ライトスパーリングの略。2人一組で互いに自由に突きや蹴りを出し合う、いわゆる自由組手だが、全力でガチガチにやるのではなく、力をセーブして軽く当てる練習だ。

 赤石さんは途中で道場生たちにこう説明した。

 「ライトスパーは、より集中しないとダメです。強く当ててはいけないけど、速く、軽く当てるからこそ、技をコントロールする必要がある。体にも脳にも汗をかくように行えば上達します」

自分で課題設定し、様々な技術を試す

 全力でガチガチにやる組手では、相手を倒すのが目的だから、冷静さを失い、つい感情的になりがちだ。これに対してライトスパーは、勝ち負けではなく、技術を磨くのが目的。たとえば「今日は後ろに下がらずに横のステップで回り込むことを意識して動こう」とか、「相手が蹴りを出そうとした瞬間に軸足を崩そう」などと自分で課題を設定し、様々な技術を試すことができる。

「武道好きサラリーマンあるある」 ウクライナ外交官の場合

 ライトスパーを行うルトビノフさん。けが防止のため薄手のグラブをはめている。

 ちなみに、代官山道場では日曜日以外は毎日練習ができ、「少年初級クラス」「少年中・上級クラス」「一般中・上級クラス」など、年齢や上達度に応じて分かれている。この日の夜は「一般試合クラス」。単独で行う基本稽古よりも、相手と組んでの技術やスパーリングなどを中心に練習する。

 ライトスパーに汗を流す道場生たちの中に、在日本ウクライナ大使館の外交官、ユーリ・ルトビノフさん(45)もいた。

 自分より一回りも二回りも若い道場生と、2分間戦っては相手を替え、また戦う。1人目とのスパーが終わって、早くもルトビノフさんの息があがってきた。2人目が終わると、さらに息が荒くなり、顔や胸が紅潮している。それでも、回を重ねるごとに徐々に動きが良くなり、突き、ローキック(相手の太ももを蹴る下段蹴り)、内回し蹴り(体の内側から外側へ鋭く回す蹴り)など、多彩な技を繰り出す。

 腰の入った前蹴りを出す。当たると痛そうだ。

巨漢から繰り出される突きの威力

 途中、私(山口)が「おっ!」と思ったスパーがあった。

 ルトビノフさんが戦ったその若い相手は、手数が多く、技のスピードも速い。体が柔らかいのだろう、高い上段回し蹴り(ハイキック)もバンバン飛び出す。ルトビノフさんはその蹴りや突きをガードするが、時々胴体にも当てられてしまう。もちろん、突きや蹴りで反撃する。しかし、相手の手数の方が多く、やや押され気味に見えた。

 が、ルトビノフさんが次に出した突きが相手の腹にヒットすると、とたんに相手の動きが鈍くなった。突きが効いたのだ。身長179センチ、体重92キロの巨体から繰り出される突きは、相当に重く、威力があるのだろう。ライトスパーでさえ、こうなのだから、全力で戦う試合であの突きをくらったら、かなりのダメージを受けるはずだ。

 稽古が終わった後、ルトビノフさんは汗を拭きながら、「組手の練習をするのは、たぶん2か月ぶりです。仕事が忙しくて、なかなか稽古に出られませんでした。ちょっとスタミナが切れましたね」と笑顔を見せた。

 相手の回し蹴りと同時に重い突きを入れる。前へ出る強い意志が必要だ。

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山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社編集委員

 1962年福岡市出身。1987年読売新聞社入社、岐阜支局、地方部内信課、社会部、富山支局、医療部、同部次長、盛岡支局長、医療部長を経て、2018年6月から編集委員。同年9月から1年間、解説部長も兼務。医療部では胃がん、小児医療、精神医療、慢性疼痛、医療事故、高齢者の健康法、マインドフルネスなどを取材。趣味は武道と映画観賞。白髪が増えて老眼も進行したが、いまだにブルース・リーを目指している。

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ファンタジスタのパスに込めたメッセージ

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

プロレスラーの大物政治家もついに引退しましたが、格闘技やスポーツは政治と切り離せない部分があります。 それは、現地の人々や文化と交わる、あるいは...

プロレスラーの大物政治家もついに引退しましたが、格闘技やスポーツは政治と切り離せない部分があります。
それは、現地の人々や文化と交わる、あるいは溶け込む作業だからです。

サッカーでは、少なくない国で、中央政府が後押しした常勝チームが存在しますが、一方でそのレジスタンス的なコミュニティも存在しますし、地域のチームへの愛着は並々ならぬものがあります。
日本は第二次世界大戦の敗戦国ですし、敗戦国ではなくても甚大な被害をこうむって強国の傘の下に入らざるを得なかった国や地域は多数存在します。
そういう国との心理的な外交において、倣うべき点も多いでしょう。

医療の宗教性と多様性のタイトルでも、何回かヨミドクターにコメントを入れさせていただきましたが、政教分離の原則というのは、それが実質的に不可能なので、エスカレートしないようにブレーキをつけましょうという事ではないのかと思います。
医療に限らず、日本の政治でも、それを見ることはできます。

日本にも外交官の親戚のサッカー選手が存在しますが、外交官の家族が様々な国技に触れるのは凄く良い事ではないかと思います。
どんなに、日本の細部や日本ウクライナ関係を理解して言語化するよりも、日本の国技を体現する方が、信用が発生する場合があるからです。
仕事そのものも大事ですが、表門からだけでは伝わらない情報や関係が勝手口から伝わります。
サッカーでも、パスにメッセージを込めろと言いますが、出し手と受け手の高度な理解と応用があらゆる分野で可能性を動かします。

人は革命の為ではなく革命家のために戦うんだ、なんて戦争アニメの名言を引用したくなりますが、その人の人間性や努力がどういう形で伝わるかはわかりませんし、外交官や外国人の日本文化を体現しようとする努力を我々は受け止める必要があるのかもしれません。
ほんの少しでも世界協調や世界平和のために。

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