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食べること 生きること~歯医者と地域と食支援 五島朋幸

コラム

歯がなくても、口腔ケアは欠かせません

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 ケアマネジャーの安藤雄一さんと地域の連絡会で久しぶりに会いました。

 「おぉ、久しぶり」

 「あっ、先生。いつもお世話になっています」

 「また何かあれば声かけてね」

 「先生、ちょっと聞いていいですか」

 「?」

 「歯がない人も 口腔(こうくう) ケアって必要なんですか?」

 「もちろんだよ」

 「総入れ歯の方なんですけど、入れ歯を外して洗って洗浄液につけるのと、うがいをしているんですけど、それで十分ですか?」

 「う~ん、ちょっと足りない」

 「そうなんですかぁ。実は、僕は一度先生に診ていただきたいなぁと思っていた方がいるんです。お願いしてもいいですか?」

「もちろん」

口の中を見ると、入れ歯と舌に汚れが

歯がなくても、口腔ケアは欠かせません

 佐藤正弘さん(仮名、91歳)のアパートに到着すると安藤さんが1階で待っていました。

 「先生、ありがとうございます」

 「ごめんごめん、待たせたね」

 「いえ、僕も今来たところですから。じゃあ、行きましょう」

 3階の佐藤さんの部屋に向かいました。一人暮らしで、安藤さんはインターホンを押すと、すぐにドアを開けました。

 「佐藤さん、こんにちは。安藤です。歯医者の五島先生が来てくれましたよ」

 新聞や洋服などが散らかった部屋のベッドに横たわっていた佐藤さんが、上半身をゆっくり動かして起き上がろうとします。1分ほどかかって上半身を起こして、ベッドサイドに腰掛けました。

 「こんにちは、歯医者の五島です」とあいさつすると小さい声を発しながらゆっくりと頭を下げました。

 「佐藤さん、さっそくですけど、今日はお口の中を確認させていただきますね。いつまでも 美味(おい) しく食べていきましょうね」というと何度かうなずきました。

 口の中を拝見すると、あまり清掃されていない上下総入れ歯が入っており、舌は真っ白の上に何を食べたのか、緑色の色素も見えます。上下の入れ歯を外して口の中を観察しましたが、歯茎はきれいで傷はありませんでした。外した入れ歯を安藤さんが見て、「だいぶ汚れていますね」。

入れ歯は歯ブラシでよく擦り、舌や口の粘膜にもブラシ

 僕は上下の入れ歯をもって洗面台に行き、入れ歯を歯ブラシでしっかり洗浄しました。食べ物の残りカスはすぐに取れますが、ぬめりが強く、何度も何度も (こす) ってようやく表面がつるつるしてきました。それを佐藤さんの元に持ち帰ると安藤さんが、「すごくきれいになるんですね」と間近でしげしげと見ていました。

 今度は粘膜用のブラシをバッグから取り出して、毛先がタンポポ状になったそのブラシを口の中に入れると、 上顎(うわあご) の天井、頬、舌などを奥から手前にかき出すようにして使い、ウェットティッシュで拭います。

 「佐藤さん、痛くないですか?」と声を掛けると、口を開けて目を閉じたまま2、3度うなずきました。口腔ケア用のウェットティッシュで口の中全体をきれいに拭き取るようにし、最後はうがいをして終了。最後に入れ歯を再装着。

 安藤さんが「佐藤さん、気持ち良くなりましたか?」と聞くと、歯を見せるようにニカッと笑いました。

細菌の除去だけではなく、口の刺激も大切

 歯がない方の口腔ケアは、ある方に比べて容易であるのは間違いありません。しかし、やらなくていいわけではありません。口腔ケアの目的は大きく二つ。細菌除去と口の周囲を刺激すること。細菌除去とはバイオフィルムと言われているぬめりをしっかり除去することです。歯の周囲につきやすいのですが、入れ歯にも付着します。これを落とすには、ブラシでしっかり擦らなければなりません。ブラッシングもせず、入れ歯用洗浄液に入れる方がいますが、それでは不十分です。

 もう一つ、口の周囲をしっかり刺激することで飲み込む機能が向上することが分かっています。しっかり () んで食べている方は、それ自体が刺激になるのですが、軟らかいものを流し込むように食べている方は口の刺激が少なくなってしまいます。粘膜用ブラシや口腔ケア用のウェットティッシュで口の中をきれいにしながらしっかり刺激していくようにします。歯がない方の口腔ケアも重要なのです。(五島朋幸 歯科医)

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五島朋幸(ごとう・ともゆき)

歯科医師、ふれあい歯科ごとう代表(東京都新宿区)。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授。新宿食支援研究会代表。ラジオ番組「ドクターごとうの熱血訪問クリニック」、「ドクターごとうの食べるlabo~たべらぼ~」パーソナリティーを務める。 著書は、「訪問歯科ドクターごとう1 歯医者が家にやって来る!?」(大隅書店)、「口腔ケア○と×」(中央法規出版)、「愛は自転車に乗って 歯医者とスルメと情熱と」(大隅書店)など

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