僕、認知症です~丹野智文45歳のノート
yomiDr.記事アーカイブ
「夫婦の距離」が認知症悪化を防ぐカギ? エビデンスはないけれど…
「できない」のは認知症のせい?
地元の仙台で2015年にスタートした当事者のための相談窓口「おれんじドア」では、認知症の人に付き添ってきた奥さんや旦那さんが、「この人、全然しゃべれませんから」なんて言うのを何度も耳にしました。ところが、当事者だけで集まって話すうちに、「しゃべれない」と言われていた人から、少しずつ言葉が出てきます。何回か参加するうちに、最初とは別人のようによく話すようになり、奥さんや旦那さんを驚かせるのです。
認知症と診断されると、本人はショックや不安で、うつ状態になることがよくあります。家族は心配して、いろいろ面倒をみるようになるのですが、そのために本人が自分でできないことが増えて、ますます自信を失います。そして引きこもるようになると、人とのつながりも切れてしまいます。
「しゃべれない」「何もできない」というのが、実は認知症が進んだからではなく、うつの症状だった……という場合も、少なくないのではないでしょうか。
違いがはっきり表れた
少し前に、11人の認知症の人が集まる座談会に参加した時のことです。マイクを渡された時、よくしゃべる人とほとんどしゃべらない人が、はっきり分かれることに気づきました。よくしゃべっていたのは、一人で会場まで来た人たち。あまりしゃべらなかったのは、奥さんが一緒に来て、つきっきりで世話をしていた人たちだったのです。
そう言うと、「一人で会場に来られるほど症状が軽い人は、会話もスムーズでしょ」と思うかもしれません。でも私は、先ほど述べたように、「全く話せない」と言われていた人が、当事者だけで集まるとよくしゃべるようになるのを何度となく見ています。話せないのは、単に病気が進んだせいだとは思えないのです。
ぜひ科学的な研究を
夫婦の絆が強いのは、素晴らしいことです。面倒を見るのも、愛情があるからでしょう。しかし、絆が依存に変わってしまうと、お互いにつらいです。家族が認知症になったら、心配でたまらないのはわかります。でも、そこはぐっとこらえて、自分でできることにはなるべく手を出さないようにしてみてはどうでしょうか。
病気が進むスピードには個人差がありますが、周囲の人の関わり方によって、それが遅くなることがあるのではないかと私は思っています。何百人もの当事者を見てきた経験からそう感じているのですが、残念ながら、科学的なデータに基づいているわけではありません。この考えを検証するような、信頼できる研究が出てくるといいのですが。(丹野智文 おれんじドア実行委員会代表)
2 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。