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うんこで救える命がある 石井洋介

医療・健康・介護のコラム

うんこが滝のように出たら考えたい病気

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冬のウイルスはインフルエンザだけじゃない

 寒い季節になると必ず話題になるのが、ウイルス界の“主役”インフルエンザですね。私の勤務する病院でも連日、ワクチン接種の希望者が多く、インフルエンザに関しては、かなり予防の意識が高まっていると感じます。一方で、同じころに流行期を迎える“うんこ系疾患”に、ノロウイルス感染症があります。インフルエンザに関してはワクチンや抗インフルエンザ薬による治療など、ある程度紹介するべき対処法があるのですが、ノロウイルスに関してはワクチンもなければ薬もないため、ちょっとメディアとして取り扱う要素が少なく、話題性としてインフルエンザに負けがちです。

 そんなノロウイルスですが、激しい 嘔吐(おうと) だけでなく、下痢や腹痛が起こり、周りの人への感染力も強力で、インフルエンザに負けないくらいあなどることができないウイルスです。そこで今回は、ノロウイルスに感染した場合に覚えておきたい重要なポイントをまとめてみます。周りに嘔吐や下痢をしている人がいたら、ぜひ伝えてあげてください。

ノロウイルスの症状と受診のポイント

 ノロウイルスの感染ルートというと、 牡蠣(かき) のような二枚貝を非加熱で食べた時が有名ですが、二次感染、つまり、すでにノロウイルスに感染した人からトイレや配膳を通して感染してしまう可能性も高く、「生の貝を食べたなど、何か思い当たる食べ物はありますか?」と聞いてもはっきりしないことの方が圧倒的に多いです。

 ノロウイルスは、体内に取り込まれてから2日ほどで嘔吐が始まり、下痢や腹痛が3日程度起きることが一般的です。病院に来ていただければ10分で結果がわかる診断キットもありますが、インフルエンザが流行する11月から2月ごろの間で、介護施設や学校などの集団感染があるなどのエピソードがある場合は、その状況からノロウイルスであるという診断を下すことが多いです。ノロを疑うような症状になった場合には、外出して感染を拡大させないためにも、家で安静にするのがベストです。

 自宅療養をする際に重要なことは、嘔吐をしているからといって水分摂取をやめるのではなく、脱水を予防するようしっかりとスポーツドリンクや「OS-1」などの電解質を含んだ水分をしっかり () ることです。幼児や高齢者など体力がない人は、激しい嘔吐や下痢が続くと脱水や体の中の成分のバランスが崩れやすく、意識障害などの重篤な症状につながる危険性もあります。水分を摂取しても嘔吐によってすぐに全て吐き出してしまう場合や、意識がぼーっとしてきたなどの症状が出た場合は、点滴をする必要があるため病院を受診してください。

ノロウイルスにはアルコール消毒が効かない!

 ノロウイルスは脱水症状さえ予防できれば、それだけで命を奪われるようなことはありません。重要なことは、それ以上感染を拡大させない「予防の意識」です。ノロウイルスは不顕性感染と呼ばれる「症状が出ないけど感染している人がいる」状態があるため、人と触れる職業や配膳に関わる職業の人は流行期に症状がなくても、いつも以上に清潔を保つよう意識し、マスクやエプロンを装着するなどの予防策を徹底しましょう。ノロウイルスは症状が改善してからも1週間から2週間は体の外に菌を出し続けると言われているため、油断は禁物。感染後も、しばらくは予防策を徹底しましょう。

ノロウイルスにはアルコール消毒が効かない!

写真はイメージです

 また、「ノロウイルスにはアルコール消毒が効かない」ことが知られています。嘔吐や下痢を起こした後の消毒には、「次亜塩素酸ナトリウム」の入った洗剤や消毒液を使う必要があります。嘔吐で汚れた可能性がある衣服は他の衣服とは一緒にせず、次亜塩素酸ナトリウム製剤を使って洗濯をしましょう。トイレも同様で、汚物がはねた場合などは一般的なトイレの洗剤では不十分なため、次亜塩素酸ナトリウムが入ったものを使用しましょう。さらに重要なポイントが、「うんこを流す時はトイレの (ふた) をしよう」です。トイレで下痢や嘔吐をした場合は、トイレを流す際に 飛沫(ひまつ) が飛び散り、ウイルスを飛散させてしまうことが知られています。飛散を防ぐためにトイレの蓋をしてから、うんこを流しましょう。ちなみに「トイレの蓋を閉める男性の方が女性からの好感度が高い」との情報を掴みましたので、男性諸君は普段からトイレの蓋を閉めて流す癖をつけておくのがいいでしょう。

ノロだと思ったら実は違う病気だったエピソード

ノロだと思ったら実は違う病気だったエピソード

写真はイメージです

 ある若い男性患者さんは、周りでノロウイルスが流行しており、下痢と腹痛が続いていたため、自己判断で「ノロウイルスだろう」と思い、様子をみていました。しかし2日たっても症状が改善せず、どんどんおなかが痛くなってきたので、救急車で来院することになりました。そして診断した結果は、「虫垂炎(盲腸)」でした。

 ノロウイルス感染症の多くは、嘔吐を伴うことが多いです。この方の場合は、嘔吐がなかったことや、腹痛が強かったというのがポイントで、ノロウイルスではない疾患を考えた方が良かったかなと思います。腹痛が続く、発熱が続くなどの症状がある場合には、一度早めに消化器内科での診察をおすすめします。

 最後に、ノロウイルスに似ているウイルス疾患の一つに「ロタウイルス感染症」があります。症状は似ているのですが、ロタに関しては特に乳幼児で重症化してしまうことが多く、ワクチン投与が推奨されています。今後は定期接種の一つになるとされていて、ホットなトピックなため、これは改めて別の記事でご紹介したいと思います。

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ishiyousuke_prof

石井洋介(いしい・ようすけ)

 医師、日本うんこ学会会長

 2010年、高知大学卒業。横浜市立市民病院炎症性腸疾患科、厚生労働省医系技官などを歴任。大腸がんなどの知識の普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」を開発。13年には「日本うんこ学会」を設立し会長を務める。現在は、在宅医療を展開する「おうちの診療所 目黒」に勤務し、株式会社omniheal代表取締役、秋葉原内科saveクリニック共同代表、一般社団法人・高知医療再生機構特任医師などを兼務。著書に「19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと」(PHP研究所)など。

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1件 のコメント

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色んな腹痛 急性腹症の多彩さを考える

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

腹痛(急性腹症)は何科が診るのか複雑ですね。 病院の状況にもよりますが、最初に事に当たるのは、一般内科か、消化器内科でしょうか? 嘔吐がある場合...

腹痛(急性腹症)は何科が診るのか複雑ですね。
病院の状況にもよりますが、最初に事に当たるのは、一般内科か、消化器内科でしょうか?
嘔吐がある場合でも、必ずしも消化器疾患とは限らないのが曲者ですね。
症状や病歴が大事な一方で、そこにこだわり過ぎない柔軟性も求められます。

まずは、腸音やお腹の所見を確認しますが、今時は超音波や内視鏡の出番も多いでしょうか?
一方で、それらの検査はCTやMRIに比べて優れた部分もありますが、診断の弱点が多いので、その部分にはどの科の、どんな医師でも謙虚である必要があります。
僕自身、研修医時代にも、その後でも、何度か失敗はあります。
放射線科医のカンの良い先生がいない病院の場合、泌尿器や産婦人科、あるいは外科などの先生たちで協力して病変を探す必要もあるでしょう。

NOMI=非閉塞性腸管虚血といって、造影剤を使わないCTでは判読困難なものもあります。
もちろん、もっと奇天烈な病変も世の中にはありますし、MRIやもう少しマニアックな検査も必要な場合があります。
そこに、心因性のものや機能性疾患、特定物質の影響なんかも考えると、意外となんでもアリです。

とはいえ、ディープな検査をどこまでやってよいかは難しい問題で、そのへんの守備範囲をよく考えた投薬や経過観察のできる消化器内科の先生は本当に頼れる存在なのは間違いません。
下痢を止める薬を使うか使わないかも、全身状態を踏まえた判断が大事ですね。
医師国家試験の時点では、そこまで求められないとは思いますが、医師もスタッフも患者も、どの地域のどの病院で、どの程度検査を済ませておくべきか、マイペースで学んでいく部分です。
せん妄の問題もありますし、短時間で診断治療とか間違いは増えるので、救急車に乗ってから考える文化が無くなっていくといいと思います。

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