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産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

コラム

クレーム対応の28歳、女性社員 怒りの電話にストレス、どうしのぐ

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 ストレスチェックで「高ストレス状態」と判定された井山和代さん(28歳、仮名)は、医師の面接指導を希望しました。彼女はメーカー営業部を経て、2年前からお客様サービス部に配属となりました。業務は、顧客サービスが半分、残りが苦情処理でした。和代さんは顧客に笑顔で対応し続けています。

お客様サービスは大事な部署と言われたが

イラスト 赤田咲子

私 : 産業医で、メンタルを専門にしています夏目です。よろしく。

井山: お客様サービス部で2年目の井山和代です。

私 : 大切な部署ですが、言われっぱなしが多くて、ストレスが () まりますね。以前も相談に来た方がいました。

井山: 課長からは「苦情対応で商品の欠点を知り、新製品のための資料収集をする重要な部署」と言われて、そう理解してきたのですが……。実際には、商品への苦情というより、お客様の感情への対処が多くて。

私 : 大変ですね。

井山: でも仕事ですから、聞き方研修も受けて、なんとかやってきました。

私 : 必要なスキルの研修もあるわけですね。

 (急に怒りの表情に変わりました)

井山: でも、課長にダマされた気分です。

私 : そうか。

井山: 苦情電話もありますが、一方的に感情をぶちまける人が多くて、怒りの感情ですね。

私 : 怒りを。

井山: 同じ苦情を何回も何回も繰り返します。

私 : 何回も何回も。

怒りをぶつけられ、心が凹む

 井山: 仕事だと思っても、感情をぶちまけられると、心が凹みます。うちに帰っても、耳にこびりついてしまって。

私 : わかるよ。「苦情のモンスター」もいますからね。精神科医も感情爆発に対応していますから。

井山: そうですか。感情処理のスペシャリストですね。

私 : 10人の相談者のうち4人が、怒りの爆発に対応していると、相談室は凍ってしまいます。プロでもつらいですよ。どうしても、うっ憤は会社や上司に向かいますね。

井山: (少しホッとした表情で)プロでも凹むことがあるとわかって、少し安心しました。

商品の説明をしたら、倍返しされた

 私 : 精神科医だって、カウンセリングで話をじっくり聞くのではなく、薬を処方してすませてしまう医師が増加していますよ。

井山: 顔を合わさないので、電話は言いやすいんでしょうか。あるお客様の対応中、苦情ばかり言うので、つい、その製品の良さも説明した時でした。急に電話が切れました。しばらくして、その人から上司に苦情が行ったようです。私が課長から注意されました。悔しいですよ。

私 : そういうことがあるんだね。

井山: 我々に言えば、すぐに対応してくれると思っている方もいるのですが、組織上、そうなってはいませんから。

私 : 縁の下の力持ちだね。会社が悪いのよ。君たちに丸投げしているだけだ。僕の印象ですが、人事や企画部などのエリート部門の人間はクレーム対応に無関心。丸投げだ。そういう企業の将来は暗いね。

井山: やりがいがない。転職しようかとも思いますが、給与が比較的良いから我慢しています。友人に相談しました。彼女は営業職で、「怒りのスイッチ」について教えてくれました。

 以下は友人との会話です。

苦情を言う人には「怒りのスイッチ」がある

 井山: 聞いて、聞いてよ、溜まっているから。

友人: 前に、私の話を聞いてくれたから。聞きますとも。

井山: お客様対応で普通に話していると、突然、怒り出す人がいるのよ。あれって、何?

友人: 「怒りのスイッチ」が入ったのよ。

井山: 「怒りのスイッチ」ね。どこで入るか、ぜひ、知りたい。

友人: 知人で急に怒りだす人がいるの。数回あったので、我慢だけではもたない。

井山: わかる、わかる。

友人: 観察したのよ。わかったのは、その人が話している時に、私が意見を言うと、スイッチが入るみたい。 相づちならいいんだけど、意見を言った時ね。

井山: 自分の話をさえぎられたから?

友人: そうよ。話し続けたい。

井山: なるほどね。

話を聞いてくれる人がいないから苦情係が相手

 友人: 普段、話を聞いてもらえない人なんだと思ったの。

井山: 話を聞いてほしいだけなのね。

友人: そう、そう。

井山: 勉強になった。

友人: 私もそれに気づいてから、聞くことを中心にしたよ。

井山: なるほど。

友人: 営業部でも「怒りのスイッチ」について話してみたけど、みんな思い当たるところがあったみたい。

井山: でも、1時間も聞くのは堪えられない。

友人: 30分くらいが多いみたい。

井山: なるほどね。ありがとう。そう思って活用してみるわ。

半分聞いて、半分聞き流す

 私 : スイッチ、ありますね。どう予知するかが大事だ。

井山: 人の話を40分までは聞くことと、言われました。

私 : よく気付いたね。長い時のコツです。

井山: コツがあるの?

私 : 人の話を、「半分聞き、後は受け流す」の言葉がある。名言ですね。すべてを受け止めないのも大事ですよ。

井山: そうですね。聞き半分、流し半分。

私 : 後は、仕事の8時間は生活のためと割り切る。仕事は、つらいことが多いから給与が出るの。

井山: 生活のために。それは8時間限定ですね。

大変な仕事なので、自分にごほうびを

 私 : その代わり、プライベート時間を思いっきり楽しむこと。自分にごほうびをあげましょうね。

井山: そうか。ご褒美、あげていなかったです。

私 : 例えば旅行や 美味(おい) しいものを食べに行く。

井山: 温泉旅行がいいなぁ。露天風呂でのびのびして自然と触れ合って、その後、ゴージャスなエステで、女王様気分で癒やされること。先生、楽しみがあると働けますよ。

クレームに即対応できる組織こそ

  企業は消費者との対話の場、クレーム処理部門を設けています。消費者にとっては、会社の顔になるので、大切な仕事です。ずさんなクレーム処理や対応を怠って、社会問題になり、企業イメージの大幅なダウンや経営責任までに発展したケースがあることはご存知でしょう。「苦情処理部門」は企業におけるリスク・マネージメントの最前線です。

 お客さんの怒りを自分自身で受け止めてしまってはもちません。仕事としてうまくかわすスキルが必要です。会社としては、そこで働く人をきちんと評価してほしいですね。それに問題があれば、すぐに対応できる組織作りも大事です。

 最後に、「マコトの一言」で締めさせていただきます。

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夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

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1件 のコメント

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クレームの構造問題と働き方の技術

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

身に覚え有りますし、逆もありますが、最近は録音録画配信など情報機器とかITによるネットワークとかなんとかの時代なので印象操作に使われる場合もあり...

身に覚え有りますし、逆もありますが、最近は録音録画配信など情報機器とかITによるネットワークとかなんとかの時代なので印象操作に使われる場合もありますし、余計に感情を貯め込みやすい時代ですね。

戦争でも情報戦とか謀略とかありますが、情報の持つ政治効果=相乗効果は侮れません。
逆に言えば、企業もクレーム対応の人材は重要性を増すでしょう。
短期の売上を出すだけじゃなくて、中長期的な売り上げを担保するシェアや人材、信用を守るのも等しく大事です。

クレームは本当に商品やサービスの内容に問題がある場合とない場合があって、そこに感情や時間的余裕、あるいはその人の中での理解や実行の優位性の問題があります。
法を悪用する技術を使う弁護士などもいるそうですが、誠実な対応をしない組織や地域というものに対しては、ケースが重なるにつれて、様々な負の情報や実績が集まります。
医療ニュースも見ていればわかる通り、形だけ修正しましたとアピールしても、同じ組織や同じ地域で何度も問題が起こります。
そういうのも含めて、住み分けの問題かもしれませんけどね。

いずれにしても、自分の適性や希望を考えて、働き方や学び方もリテラシーが必要です。
会社の希望と個人の都合や適性がマッチし続けることなど不可能なわけで、自分や家族の人生を壊さない働き方や働き場所を考えていく必要があります。

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