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腰痛による損失は「年間3兆円強」…インナーマッスルを鍛えて「腰は動かして治す」
全国でおよそ2800万人が悩まされ、実に8割の人が経験しているという腰痛。なぜ腰痛になるのか、どうしたら治るのか、どう予防すればいいのか。
今回は「腰痛は動かして治す」というテーマで、原因の特定が難しい腰痛とは何か、腰痛対策の要になる二つの筋肉、簡単にできる腰痛改善のエクササイズという3つのポイントについて、腰痛治療のエキスパートが、司会の右松健太キャスターらにエクササイズを指導しながら、じっくり解説しました
金岡恒治(かねおか・こうじ) 早大スポーツ科学学術院教授 日本水泳連盟医事委員長。ロンドン五輪ではJOCのチームドクターを務めた
松平浩(まつだいら・こう) 東大医学部附属病院特任教授 整形外科医。日本腰痛学会評議員。著書『腰痛は「動かして」治しなさい』(講談社)『腰痛は脳で治す!』(宝島社)
原因の特定が難しい「非特異的腰痛」が85%…心理的ストレスの影響も

腰痛対策の要になる「多裂筋」を鍛えるエクササイズ「ハンドニー」に取り組む(手前から)山口編集委員、右松キャスターら
久野静香アナウンサー 松平さんの調べでは、4人に1人が、腰痛が原因で仕事や家事を休んだことがあり、それによる経済損失は年間3兆円とも試算されています。
松平 「腰痛でどの程度仕事に支障を来しているか」という数字をアンケートでつけてもらい、その人の年収を換算式に入れて、年の損失額を算出しています。最近の調べでは、腰痛を持って出社している人の損失だけで3兆円強となります。
右松 腰痛には、どういったものがありますか。
久野 主に診察などで痛みの原因がわかる「特異的腰痛」、原因の特定が難しい「非特異的腰痛」があります。その中では、受診者のうち非特異的腰痛が85%に上るともされています。
松平 一般論として、高血圧とか糖尿病みたいな、ちゃんとした診断がつけられる腰痛は、あまり多くないことがわかっています。
右松 腰痛は、なぜ起きるんでしょうか。
松平 大ざっぱに言うと、腰にかかる不良姿勢だとか、腰の使い過ぎによる無理な姿勢や動作から来る腰の不具合です。もう一つ、長引く腰痛には心理的なストレスが影響します。
ぎっくり腰などになって「大丈夫なのか」という不安、恐怖を感じてしまうと、過敏に脳が反応して、自分で痛みにブレーキをかけにくくなる。
また、安静にすると、局所がかえって痛みに過敏になるというメカニズムもありますが、それが長引くと、体幹の筋肉などが落ちてきて再発しやすくなるという悪循環に陥ります。
山口博弥・読売新聞編集委員 脳の痛みの苦しさを感じる部位と、劣等感とか嫌悪感などのネガティブな感情(を感じる部位)がかなり重なる部分があり、そういうネガティブな感情とかストレスがあると、より痛みが強まるという話を聞いたことがあります。
MRIでヘルニアが見えていても…
松平 私の患者さんが、腰痛がない時に撮った(椎間板ヘルニアが見えている)MRI(磁気共鳴画像)=写真左=がありますが、腰痛がない一般の人の76%にこのようなヘルニアがあることが、論文でわかっています。(次は)逆に画像で見ると全く正常な患者ですが、腰痛持ちです=写真右=。
画像診断の結果が意外と役に立たないから、腰痛の原因特定がなかなか難しいという背景が今まであったことは、間違いないかなと思っています。
金岡 MRIでヘルニアがあるからといって、今の痛みがそことは限らない。筋肉や、ほかの関節から来る痛みもある。年をとってくると、ある程度の頻度で椎間板は潰れて出てきます。(医師は)「画像で何か所見がある。痛みの原因です」と言いがちですが、でも、そうではないことも多いんです。
右松 ぎっくり腰は、なぜ急になるのでしょうか。
金岡 腰の骨は、小さい骨がつながってできています。椎間板というクッションでつながっているだけで、蛇のようにぐにゃぐにゃしています。それをきちんと支えている筋肉が、動きをコントロールするわけです。
その筋肉がきちんと働いていない瞬間に大きな動きをすると、腰の骨にある関節や椎間板に負担を与えます。あるいは、アウターマッスルという外にある大きな筋肉に余計な負担が加わったりします。
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