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のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行

医療・健康・介護のコラム

かかりつけ医に年賀状 感謝の気持ちと自分の目標を伝えるために

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1年間の実績を振り返りつつ

かかりつけ医に年賀状 感謝の気持ちと自分の目標を伝えるために

 数日ぶりにこのカフェの扉を開けた。それほど混んでいない。マスターののぶさんがお客のように客席に座ってパソコン作業をしている。

 「こんにちは」

 のぶさんは私に声をかけると、カウンターの中へ移動した。障害がある彼は、足を引きずっているが、結構スタスタと店内を歩く。コーヒーを注文すると同時に、パソコンで何をしていたのかを聞いた。

 「年賀状を書くために、データを集めているんです」と、のぶさん。もう、そんな季節かと思いつつ、えっ、年賀状のためのデータって何? 私が 怪訝(けげん) そうな顔をしてしまったのだろう。コーヒー豆を計量しながら、笑顔で答えてくれた。

 「年賀状に、毎年、1年間の具体的な目標を書くんですよ。その基となる今年の実績はどうだったかな、と思って……」

 「来年の目標?」

 「そう。この前、自分のしたいことをはっきりと周りに伝えておくと協力してくれるからいいって言いましたけど、それを具体的に年賀状に書いちゃうんですよ。1年に1回、必ず振り返りもできるようになるし」

イベントの数や参加者数 交流から生じた「化学反応」の数

 へぇ。なるほど。のぶさんはどんなことを書くのだろう。店の売り上げだろうか? したいことだから、海外旅行とかだろうか? 興味がわいたので、聞いてみた。

 「自分で企画したり出演したりしたイベントの数や参加者の人数、イベントを通じて参加者の間で実際に起きた『化学反応』の数と、そして、ヨミドクターのページビュー数ですね」

 「化学反応?」
 のぶさんは、人と人をつなげるために、このカフェも経営しているし、イベントも多く開催しているんだった。そのイベントに参加した人の行動変容を、化学反応と言っているらしい。

医師や薬剤師に自分の生活を知ってもらう

 「年賀状は、主治医やかかりつけの薬剤師にも出すんです」

 ん? 思わぬ話になりそうだ。

 「今の時代、入院や手術のときに、医者に袖の下を渡すなんて、常識外れでしょう。でも、自分の日ごろの様子や、お礼の気持ちを伝えたいな、と思うんで。まぁ、自分を知ってもらうための戦略の一つでもあるんですけどね。ははは」

 もちろん、職場宛てに送ることもあってか、返信は来ないそうだが、次の外来で話題にしてくれる医師もおり、よりよいコミュニケーションに役立つという。年賀状が、医師や薬剤師に自分の生活を知ってもらうツールになるのか! 目から (うろこ) だ。

かつての主治医から近況を伝えるはがきが

 でも、こういう年賀状をもらうのは、医療者の負担にはならないのだろうか?

 「実際、どうなのかわかりませんけど、嫌がられた経験はないですね」

 なんでも、先日、小学生の頃の主治医から、はがきが届いたそうだ。今では80歳を超すものの現役だというその医師は、医療系雑誌の中でのぶさんの記事をたまたま見つけて、連絡先を調べ、近況などを送ってきたという。なるほど、仕事上のやり取りという感じならば問題ないのかもしれない。

 そういえば、私の会社にも、仕事で付き合いがある方から年賀状が届いている。その感覚と思えばいいのかもしれない。 

 冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干し、店を出た。駅まで歩きながら考えてみる。

思わず独り言をつぶやいてしまった。

 「来年、おれがやる具体的な目標か……」

(鈴木信行 患医ねっと代表)

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

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鈴木信行(すずき・のぶゆき)

患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。

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