精子に隠された「不都合な真実」
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精子の状態を優先した新たな不妊治療 好成績の一方、治療断念を迫られるケースも
主治医の見解「治療断念」 夫婦の葛藤、混乱
人工卵管法に「ステップダウン」して妊娠に成功した夫婦がいる一方、体外受精でも顕微授精でも妊娠できなかった夫婦に、その後の精子精密検査で隠れた異常が見つかると、治療を続けるか、撤退するか、相談することになります。この場合、不妊治療を長く続けた結果、奥様の加齢が加わり、さらに妊娠の可能性が低下していることも考慮しなくてはなりません。もし主治医の見解が「治療断念」だった場合、「なんで今頃、そんなことを言われなければならないのか」という夫婦の葛藤と混乱こそが、 連載2回目 にお話しした「サイエンスだけで割り切れない心の問題」なのです。
今回のトライアルで感じたことは、周到に事前準備を行い、得られた精子の「数と質」に応じて顕微授精と体外受精(人工卵管法)を使い分けるべきであり、「数と質」が足りなければ「治療断念」を考慮するべきだということです。
そして、「大変なこと」の二つ目は、このトライアルが、妊娠するための技術の検証であると同時に、不妊治療の「やめどき」を考えるプロジェクトだとわかったことです。
今までは、「長い間治療を尽くしたからこそ、夫婦はあきらめられる」のであり、クリニックにとって、治療の終了とは患者が来院しなくなった時でした。私たちは、もっと前の段階で治療を終えるためのチームをどのように作っていくか、論議しています。
1時間以上の話し合いができる外来
治療によって妊娠できた夫婦を笑顔で送り出すのと比べて、精子の検査結果をもとに、治療断念も含む、厳しい現実を夫婦に納得してもらうことは大変な時間がかかります。それは外来診療というより、むしろ人生相談になります。
そこで、私たち精子研究チームのメンバーのうち、開業して一人で不妊治療を行っている黒田が、夫婦と1時間以上の話し合いができる外来を整えたうえで、2013年からトライアルを開始し、他のメンバーがサポートする体制を作りました。今回は、その成績や概要を示しましたが、次回は、そのなかで経験した夫婦の具体的なエピソードを紹介します。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)
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