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なつかしスポット巡り

回想サロン

身近な暮らしの懐かしさを求めて~東京都水道歴史館(東京・文京区)

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 御茶ノ水駅から徒歩10分ほどの東京・本郷の住宅地の中に、東京都水道歴史館はあります。地上3階建ての建物で、江戸開府以来の上水道の歴史を振り返ることのできる展示となっています。2階に有名な玉川上水、そして庶民の命綱だった井戸の掘削などの展示があり、明治時代以降の近現代の水道の歴史は、入り口近くの1階にある展示品からしのぶことができます。

 日々の生活に欠かすことのできない安全な水を都民に供給するため、どのようなことが行われてきたのか――1階フロアを中心に歩いてみましょう。

江戸から東京へ 上水の整備・近代化が急務に 

 明治維新後、江戸から東京に名を変えたこの都市は、上水の整備が急務になっていました。江戸時代以来の木樋もくひによる上水は、水路付近の市街化や木樋の老朽化、下水の混入などによって汚染が激しく、首都の水道設備の近代化が政府の重要案件になっていきます。

 1886年(明治19年)のコレラの流行が近代水道整備を促進する大きなきっかけとなりました。明治政府はお雇い外国人の力を借りて西洋の水道技術の導入を決め、1890年(明治23年)には東京水道改良設計が決定されます。そして、1898年(明治31年)、今の新宿に淀橋浄水場を完成させ、1911年(明治44年)には東京の都市部の大部分へ給水する能力を備えるようになりました。

実物大で再現された村山取水塔

ドーム形の取水塔 竜をかたどった共用栓 馬の水飲み場

(左)馬の水飲み場が設けられた「馬水槽」 (右)水の出口が竜をかたどっている「蛇体鉄柱式共用栓」

(左)水の出口が竜をかたどっている「蛇体鉄柱式共用栓」 (右)馬の水飲み場が設けられた「馬水槽」

 歴史館の入り口には、多摩地区にあった村山貯水池の取水しゅすい塔を実物大で再現しています。天井部分がドーム形で、何ともモダンな建物です。こんな実用的な建築物からも、近代モダニズムの余光が感じられ、写真に収める人も多いそうです。

 展示物に目を移すと、水の出口が竜をかたどっている「蛇体鉄柱式共用栓」がありました。今でも水道の出口を「蛇口」と言いますが、その語源になっているそうです。

 そして変わったところでは、馬水槽という水道栓があります。牛馬用、犬猫用、人間用と三つの水飲み場が設けられた水道栓です。ちょっと驚かされますが、明治・大正期には、馬車などが走っていたから、馬の水道栓も必要だったのでしょう。牛馬、犬猫、人間がそろって水を求める姿を想像すると、ほほ笑ましく思えてきます。何とも平和な時代だったのでしょう。

首都・東京を支える日本最大級の水道管

 ほかには、近代水道に不可欠の水道管「鋳鉄管」も展示されています。日本最大級の水道管を見ることができ、その迫力には驚かされます。日本の首都を支える水道管ですから、これぐらいのスケールは必要だったのでしょう。このほか、館内では、写真パネルを多用して近現代の水道の歴史をたどれるようにしています。

首都を支える日本最大級の水道管

 大正期の関東大震災、1945年(昭和20年)の東京大空襲……幾度も水道施設は壊滅的な被害を受けましたが、そのたびに職員らの奮闘によって必死の復旧作業が行われました。戦後になって、人口や産業の集中に伴い、東京の水需要は急激に増大し、供給が追いつかず、「東京サバク」と呼ばれる渇水に悩まされた時代もありました。安定供給のため、漏水をなるべく少なくするなどの工夫を凝らし、現在の快適な水道環境の整備に至っています。

 東京の水道事業は時代とともに拡大しました。淀橋浄水場は、今はその姿を高層ビル群に変え、浄水場の存在を覚えている人も徐々に減りつつあります。水道の歴史は、都市景観の変化の歴史であり、生活に密着していることから、ライフスタイルの変化の歴史でもあります。決して派手さのあるミュージアムではありませんが、私たちの生活の基盤となっている水道の歩みをたどることを通して、足元の歴史を見つめ直す契機としてはいかがでしょうか。

                             (塩崎 淳一郎)

東京都水道歴史館

【所在地】東京都文京区本郷2-7-1
【電話】03-5802-9040
【アクセス】JR・地下鉄「御茶ノ水駅」から徒歩8分
【開館時間】午前9時30分~午後5時(入館は午後4時半まで)
【休館日】毎月第4月曜日、年末年始
【入館料】無料
【ホームページ】http://www.suidorekishi.jp/index.html

 

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