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リンボウ流ストレスとの付き合い方…林望さん

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リンボウ流ストレスとの付き合い方(上)~狭心症抱え、源氏物語現代語訳の悲願成就

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 リンボウ先生こと作家の林望さんが、文庫本版「謹訳 源氏物語 改訂新修」全10巻(祥伝社刊)を完結させました。単行本でいったん出た本ですが、全面的に改稿して令和の世に問う最新の「リンボウ版源氏」です。持病の狭心症に細心の注意を払いつつ、風邪にもめっぽう弱い体質というハンデを克服しての偉業。健康法についても聞きました。

(クロスメディア部 塩崎淳一郎)

リンボウ流ストレスとの付き合い方(上)~狭心症抱え、源氏物語現代語訳の悲願成就

――単行本で出した「謹訳 源氏物語」(2010~13年)は全10巻、24万部のベストセラーとなり、毎日出版文化賞特別賞も受賞しました。あえて、今回、文庫本で出すにあたり、全面的に手を入れた理由はなんでしょう。

 そのときそのときのベストを尽くしていますが、前回の単行本を出している途中でも、何度も見直しているにもかかわらず、間違いがあったり、最初の訳よりももっと適切な訳があるな、と思ったりするものです。人間は経験によって学んでいきますから。単行本も増刷ごとに校訂を加えて、すべての刷りで内容が違うこともありました。

文庫本で決定版を目指す 源氏を読む一つの手本に

 単行本より安価な文庫本では、決定版を目指しました。高校生をはじめとする読者が読んで、文庫版を一つのお手本として源氏を読むときに間違いを含んだ本で理解をしてしまったら、あまりに申し訳ない。文庫にするにあたっては、しかるべき力量のある校閲者をお願いして、自分とは違った視点で見てもらい、厳しく校閲していただきました。徹底してやりました。文庫版は、これなら高校生が源氏の訳文の標準として読んでも大丈夫だというところまで、ようやく来られたのではないかと思います。大変でした。2年がかりの作業でした。

――人生は有限です。丸々2年をかけて悔いはありませんか。

 50歳で東京芸大の教員を辞めた時から、60歳になったら源氏の現代語訳を書くんだという思いを抱いていましたから、60歳で書き始め、ちょうど70歳で終わりました。途中、平家物語の現代語訳も書きましたし、朗読の録音もしましたが、この10年間、源氏にほぼかかりきりであったと言っても過言ではありません。長かったとも、時間が惜しいとも思わなかった。よくぞ10年間死なずに成就できたという気持ちです。それぐらい源氏の現代語訳という仕事は、心身ともに疲れ果てる仕事で、源氏のような優れた作品でなければ続かない。優れているからこそ、苦労の中にも、感銘を受けたり、面白かったり、美しいなあと思うことがあったりして励みになるんです。つまらない作品だったら無理ですよ。

「なんとしても」気力で体力支え、運動と食事に工夫 

――文庫版で2度目の現代語訳に取り組んだわけですが、新たな発見はありましたか。

 あまりに長いものですから、ディテールはそんなに暗記していない。だから、単行本の時に何度も読み返していますが、今度読んでも初めて読む新鮮さがありました。本居宣長も何度読んでも新鮮だと言っています。谷崎潤一郎も3回、現代語訳を改めています。谷崎の気持ちはよく分かる。それだけのポテンシャルを作品が持っていなければ、谷崎ほどの人が3回もやり直しませんよ。芥川龍之介は訳しませんでしたが、源氏の原文を3度読んだというのを自慢してします。短い生涯にもかかわらず、芥川が3回読み直すほどの作品なんですね。

 気力、体力の限界でした。訳業の最中、ひどい帯状 疱疹(ほうしん) になってみたり、狭心症になったり、ほんとうに10巻を成就するまで無事生きているだろうか、死なないまでも、脳 梗塞(こうそく) とか、病気によって継続できないということが起こるのが一番怖かった。なんとしても成就しなくてはという気力で、体力を維持していたものです。仕事を終えたら、途端にぎっくり腰になった(笑)。病気にならないように毎日8千歩、1万歩歩き、食事にも気を付け、あらゆる方法を講じて病気にならないように頑張ってきました。

――ウォーキングが気分転換だったのですね。

 冬は昼間か夕方、夏は夜。街をぐるりと1周、一辺が1キロ・メートルの正方形のコースを規則的に歩きました。女房と歩いているときは、頭の中は無念無想。ときおり、俳句が思い浮かぶんです。A4の紙を折りたたんで胸ポケットに入れ、俳句ができたら立ち止まって書き留める。そして、家に帰ってコンピュータに入れる。不思議なぐらい、外を歩くということは、ちょっとした季節の移り変わりや、毎日見ているはずの街の変化に気付くなど、様々な発見があります。散歩中に作った俳句は結構な数があります。

――食生活にも細心の注意を払われたとか。

 心臓に負担をかけないため、太らないような食事です。極力あっさりとした、例えば、脂っ気の少ない繊維質の多いもの、いわゆる健康に良いとされているものは大いに取り入れて、食べるようにしています。揚げ物を食べない。揚げ物やアイスクリームは実においしいのですが、おいしいものを食べずに、実に索漠たるものを食べる(苦笑)。料理は私の趣味の一つなので、索漠たるものをいかにおいしく食べるかを工夫するわけです。ほとんど毎食、海藻とコンニャク、シラタキを食べている。飽きるといけないので、工夫を巡らして、カボスを加えてみるなど、様々に手を加えて食べています。

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