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思春期の子どもを持つあなたに

コラム

第11部 行為障害(下)「自分の親を傷つけている」という罪悪感、絶望感に襲われて

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母親を精神科に通院させるということ

 不定期ながら、自分の意志でクリニックに通ってきて、少しずつ自分の心の中をうちあけるようになったA子さんでしたが、心の中の多くを占めていたのは、母親を中心とした家族のことでした。「母親が話をするのは弟相手ばかり。自分よりもかわいがられている弟が憎たらしくなり、彼のマンガを破いたり、お小遣いを奪ったりしてしまう」などと、弟に対する気持ちを吐露するようになりました

 さらに、自分の母親と祖父母の関係についても語るようになりました。

 母親は祖父母にとても大切にされており、母親も何かと祖父母を頼っているそうです。「自分が暴れると、すぐに母親は祖父母を呼びに行く」「祖父母、それに弟も母親の味方につくので4対1になってしまう」「母親は自分自身の父親からも母親からも大切にされているが、私は誰からも大切にされていない」「いつも一人ぼっちで本当は寂しい」・・・・・・。

 自分の言葉で話していきながら、A子さんは自分の気持ちを整理し、理解し始めました。さらに、自分でコントロールできない行動の背景にある自分の気持ちが何なのかについても、わかり始めたようでした。
 だからと言って、A子さんの暴力行為がすぐにおさまったわけではありませんでした。

 私が話を聞いていく過程で、母親が体調を崩し、精神科に通院していることについて、A子さんが深い罪悪感を抱いていることがわかりました。でも、A子さん自身はそれに気づいていません。

自分ではコントロールできない「反復強迫」

 こういうことです。
 本来、「自分の親を傷つけている」と自覚することは、深い罪悪感、それに絶望感までを子ども本人に与えます。ところが、激しいけんかを繰り返し、自分の衝動を満足させることで、かえってそれを感じなくて済んでしまうのです。これは「反復強迫」と呼ばれ、本人がコントロールできることではなくなっています。

 たとえば、自分の振るまいに対し、いったん親に拒否・拒絶をされ、それに腹を立てて暴力行為などがエスカレートします。けんか・言い合いはさらに激しさを増すものの、最終的には親が妥協して、子どもの要求を受け入れます。いったん始まると、自分ではコントロールできないため、途中で終わることはなく、最後までお決まりのコースをたどらないと着地しません。これを解決するためには、子どもが心の中に抱え込んできた「言葉にしていない気持ちや考え」を言葉にしていく必要があります。

 そこで、私はこう伝えました。
 「自分みたいな悪い人間はもうだめだし、どうなってもいい・・・・・・、そんな絶望的な気持ちになっていない? あなたが暴力をふるって、傷ついているお母さんを見ると、さらに『私なんてどうせダメだから』とさらに罪悪感が強まっていく。その繰り返しなんじゃない?」

 彼女は、黙ってうなずきました。

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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1件 のコメント

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丁寧な読み解きの対価を守るために

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

こういう、複雑な状況の読み解き。 情報の欠損もあると思いますけど、半分は趣味に近い仕事ですね。 丁寧な医療ほど儲からない。 お金だけではないけど...

こういう、複雑な状況の読み解き。
情報の欠損もあると思いますけど、半分は趣味に近い仕事ですね。
丁寧な医療ほど儲からない。
お金だけではないけど、高度な技術というサービスにお金が支払われないという社会構造は難しい問題の一つです。
むしろ、自由診療にすればいい気もしますが、雑多な医師が林立するリスクもあります。

心療内科学会でも、心療内科の仕事を社会に認めさせたいけれどもどうしたらいいか、というテーマがありましたけど、どうしたらよいのでしょうね?
学会のフロアコメントでは、住み分けと割り切りではないかと提案しましたが、自分自身の中でもベストとは思いません。
一方で、そういう人たちや学問を守るには仕組みを作らないと仕方ないです。

もしも、出会った人が発達障害と決めつけて治療を開始していたら、と思うと怖くて仕方ありません。

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