大人の健康を考える「大人び」
医療・健康・介護のコラム
「健口」で健康(2)口のリハビリ 寝たきり回復
このシリーズでは、予防歯科学が専門の大阪大歯学部教授、天野敦雄さんに聞きます。(聞き手・佐々木栄)
古くから「口は健康の入り口、魂の出口」といわれます。健康と「健口」の結びつきについて、ある70歳代のご婦人のケースとともに考えてみましょう。
この女性は、年を重ねて足腰が弱り、ついに寝たきりになって入院しました。下半身は全く動かせず、鼻に通したチューブで流動食を取る生活に陥りました。
「このまま死を待つしかないのか……」。悲痛な思いで見守る家族のサポートのもと、いちるの望みを託して始めたのが口のリハビリでした。口のケアや、舌・のどのマッサージをした後、 誤嚥 に注意しながら少しずつ固形物を食べるといった地道な取り組みを重ねたところ、自力で食べられるようになり、食欲も戻ってきました。
その効果はてきめんで、寝たきりから車いす、自立歩行へと回復。退院後は娘さんと海外旅行もできたそうです。
私たちの体は、食べたものでつくられています。何を食べるかは体の運命を決める大事な選択なのです。けれど近年は、「年だから脂っこいものはやめて、あっさりした野菜中心の食事に」と、栄養失調を招くほど極端な「草食系」になる高齢者が目立ちます。
実は、足腰が弱って寝たきりになる大きな要因の一つがたんぱく質不足。加齢とともにやってくる「サルコペニア」(筋肉減少)を迎え撃つには、肉、魚などの動物性たんぱく質と適度な運動が必須です。適切に食べ、よりよく生きる。そう肝に銘じ、食事内容をしっかりと考えてほしいものです。
【略歴】
天野 敦雄(あまの あつお)
大阪大学歯学部教授。高知市出身。1984年、大阪大学歯学部卒業。ニューヨーク州立大学歯学部博士研究員、大阪大学歯学部付属病院講師などを経て、2000年、同大学教授。15年から今年3月まで歯学部長を務めた。専門は予防歯科学。市民向けの講演や執筆も多く、軽妙な語り口・文体が好評を得ている。
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