精子に隠された「不都合な真実」
医療・健康・介護のコラム
“精巣のクーラー故障”による男性不妊 手術で「修理」できる場合も
無精子症も「精巣内精子採取術」で治療の可能性
精液の中に精子が全くない無精子症や、あるいは非常に少ない高度乏精子症の場合も、精巣の組織を手術で取り出し、精子を採取する、精巣内精子採取術(TESE)という方法で精子を得られる可能性があります。
まず、TESE手術の実際をお話ししましょう。患者に麻酔をかけて、陰嚢を切開します。すると、白い膜に覆われた精巣が見えます。第1の関門は、この白い膜を切開して精巣を露出した時です。状態の良い精巣はパール色でつやつやしており、精巣の表面には、しらたきのような白い精細管が見え、ピンセットでつまむとスルスルと引き出されてきます。連載の初回で「精子の製造ライン」と呼んだのは、この精細管のことで、この中で精子が造られます。
状態が悪くなるにつれ、精巣は黄色みを帯び、精細管は細く弱々しくなっていきます。このような精細管はピンセットでつまむと、すぐにプチプチと切れてしまいます。さらに状態が悪くなると、精巣は黒ずみ、小さくなっていきます。この場合は精細管を引き出すことはできないので、組織を切り取り、後でばらばらにして精子を探すことになります。
TESEの対象は、閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症です。両者とも採れる精子数が少ないので、顕微授精を前提とした治療です。
閉塞性無精子症とは、そけいヘルニア(脱腸)の手術で精管(精巣から精子を送り出す管)を損傷してしまった場合や、パイプカット(避妊目的で精管を縛って切断し、精液に精子が入らないようにする)していた方が、再婚してお子さんをご希望になる場合などです。閉塞性の場合、パール色のつやつやした精巣が見られる場合が多く、質の良い精子が造られている可能性があり、妊娠が期待されます。
精巣に高度な障害があれば、良好な精子はわずか
一方、非閉塞性の場合、精管には問題がないものの、精巣自体が高度に障害されて精子をほとんど造れません。精子を得る最後の手段として、太い精細管がわずかでも残っていることを期待して、精巣を切開します。
専門的な話で恐縮ですが、精巣の障害に伴い、造精機能が崩壊していく様子をご理解いただくために、TESEの際に得られた精細管の断面をご覧いただきます。
左側の正常な組織では、赤く染めた精細管の中央には精子(濃い紫色の小さな 楕円 )が、その外側には形成途中の細胞(少し大きい紫の丸)がびっしり詰まっています。一方、右側の高度に障害された精細管では、精子産生を助ける支持細胞のみが見えるだけで、精子はいません。
第2の関門は、採取した精細管や組織を培養士が顕微鏡で観察し、精子を探す時です。太い精細管はまだしも、弱々しい細い精細管から精子が採取できる可能性は低く、また採れたとしても、ごくわずかです。壊れた製造ラインから抜き取った製品(精子)だからこそ、精密検査による品質確認を行いたいところですが、現実には顕微鏡で尾が付いている精子を確認するのが精いっぱいです。
TESEは最後の手段として行う治療ですから、精子の形態が悪く、動いていなくても 贅沢 は言えません。それを使って顕微授精することになります。治療成績は、精巣の状態、精細管の状態、ひいては得られた精子の「質」に強く依存します。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)
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