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コラム

高齢者が死なないために、まず、体重と筋肉を守ろう!

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高齢者が死なないために、まず、体重と筋肉を守ろう!

写真 幡野広志

 日本の年間の医療費は現在、40兆円を大きく超えていますが、その半分以上が70歳以上の高齢者のために使われています。そして、その高齢者医療費の実に約80%は入院によるものです。高齢者がいかに入院医療に依存しているのかがわかります。

肺炎で入院すると3割は死亡、介護度は2段低下

 高齢者はなぜこんなに入院してしまうのでしょうか。私たちのクリニックの患者さんたち(高齢者)の緊急入院の原因を改めて調べてみました。そうすると、最大の入院原因は肺炎(約30%)、その次が骨折(約10%)であることがわかりました。

 それでは、肺炎や骨折で入院した高齢者はどうなるのでしょうか。入院後の経過を調べてみました。それは非常にショッキングな結果でした。

 肺炎で入院した高齢者は、約30%もの方が入院中に亡くなられていました。そして、退院できた方も、平均で要介護度が1.72悪化していました。要介護度は全部で5段階。つまり、要介護から完全な寝たきりへの5段の階段を約2段下ったということになります。

 骨折で入院した高齢者も約10%の方が入院中に亡くなられ、退院できた方は、平均で要介護度が1.54悪化していました。

入院よりも予防が大切

 高齢者の場合、「入院できたら安心」というわけでは必ずしもないのだということがわかります。入院しても死んでしまうかもしれない、そして退院できても要介護度が悪化し、寝たきりになってしまうかもしれない、ということです。

 そして、要介護度が悪化すると、肺炎や骨折をさらに起こしやすくなり、再入院のリスクが高くなります。多くの高齢者は人生の最後の10年、肺炎や骨折による入退院を繰り返し、入退院のたびに心身の機能を低下させ、だんだん要介護度が悪化し、寝たきりになり、そして最期は病院で亡くなっているのです。

肺炎で入院すると医療費120万円がかかっている

 ちなみに肺炎で入院すると1回の入院で約120万円、骨折の場合(全部位平均)130万円くらいかかります。 大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ) 骨折の場合には、大きな手術をして、そのあとリハビリテーションが必要です。400万円以上かかることもあります。

 日本には高額療養費制度という患者さんに優しい仕組みがあります。患者さんは一定以上の費用負担を求められることはありません。では残りの費用は誰が支払っているのでしょうか。それは保険者と納税者、つまり健康保険料を支払い、税金を支払っている私たち全員で負担しているのです。

 その人の命が守られ、その人が幸せを取り戻せるのであれば、もちろんお金はいくらかかったっていいと思います。しかし実際には、入院中に死んでしまうかもしれない、退院できたとしても要介護度が悪化し、寝たきりになってしまうかもしれないのです。

 これだけお金をかけても、誰も幸せにできないのであれば、こんなお金の使い方でいいのだろうか、と費用負担者の一人としても正直思ってしまいます。

 高齢者の場合には、「何かあったら入院」ではだめなのです。大切なのは、何かが起こらないように日頃からきちんとケアをすること。つまり「予防」です。

肺炎と骨折は、低栄養と筋力低下が共通の原因

 高齢者の入院原因として大きな肺炎と骨折。これをどうすれば防ぐことができるのでしょうか。私たちは入院した高齢者の背景要因を調べてみました。すると肺炎や骨折で入院した人たちには二つの共通点がありました。

 それは(1)栄養状態が良くないこと(2)筋肉が弱っていることです。肺炎で入院した高齢者の87%が「低栄養」、つまり生きていくために必要なカロリーやタンパク質が摂れていない状態でした。また、88%は「サルコペニア」(筋肉が顕著に減少している状態)、そして96%が「フレイル」(運動機能の低下により日常生活に支障が出ている状態)でした。

 骨折で入院した高齢者も低栄養の人の割合が高く(74%)、サルコペニア(84%)、フレイル(93%)と筋肉量や運動機能が低下している人の割合が高いことがわかりました。

 肺炎と骨折は全く異なる病気です。しかし、高齢者の場合、その背景要因は同じなのです。つまり、栄養状態が悪く、筋肉が弱っていること。

 日本では、高齢者の多くは、年とともに食事の量がだんだん少なくなっていきます。日本には「年相応」という便利な言葉がありますね。お年寄りだし、身体も小さいし、あまり動かないし、これだけ食べていれば十分だろう、と、食事の量が少なくても、わたしたちはあまり気に留めません。

持病があるとカロリーの消費が大きくなる

 しかし、高齢者の多くは、複数の持病をもっています。これらの病気はカロリーを消耗します。私たちより身体が小さく、あまり動かない高齢者ですが、実は必要なカロリーは私たちとあまり変わらないか、場合によっては私たちよりもたくさんのカロリーを必要とする人もいるのです。

 必要な量の食事が摂れず、健康に生きていくためのカロリー(熱量)やタンパク質が足りなくなり、体重が減っていく。このような状態を「低栄養」といいます。カロリーやタンパク質が足りなくなると、私たちは、自分自身の身体を分解して、必要なエネルギーや栄養素を確保しようとします。その結果、筋肉の量が減少していきます。この筋肉量が減少した状態が「サルコペニア」です。

 サルコペニアになると、筋肉量が減少するので、運動機能が低下します。立ったり、歩いたり、あるいは日常生活の動作も難しくなってくるかもしれません。このような状態が「フレイル」です。そして、フレイルになると、動くのが 億劫(おっくう) になります。動かなくなると、ますます食欲が低下し、さらに食事量が低下し……という悪循環に陥ります。

肺炎や骨折をふせぐには、しっかり食べること

 高齢者はこの悪循環の中で、徐々に身体機能を低下させていくのです。サルコペニアやフレイルになれば、足腰の筋力が低下し、当然、転倒や骨折を起こしやすくなります。また、サルコペニアによる筋肉量の減少は、全身の筋肉で同時に進行していくことが知られています。足腰の筋力が低下すると、舌や喉の筋肉の力も落ちていくのです。

 その結果、飲んだり食べたりする力、そして異物を吐き出す力も低下します。それに栄養状態による体力や免疫力の低下が加わると、主に 口腔(こうくう) 内の雑菌が原因で起こる「 誤嚥(ごえん) 性肺炎」と呼ばれる高齢者に特有の肺炎を起こしやすくなります。

 肺炎や骨折を防ぐために重要なのは、食事量の低下から始まる悪循環を止めること。そのためには、まずは「しっかり食べる」ということが重要なのです。(佐々木淳 訪問診療医)

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sasaki-jun_prof

佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1973年生まれ。筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科、消化器内科で勤務。井口病院(東京・足立区)副院長、金町中央病院(同・葛飾区)透析センター長を経て2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立。2008年、団体名を悠翔会に改称。首都圏12か所で在宅療養支援診療所を運営する。

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