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生きやすい社会に学ぶアイデア 森川すいめい

yomiDr.記事アーカイブ

こころが楽になる支援とは――オープンダイアローグに学ぶ(4)「先生は生徒よりも知っている」をなくす――

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 オープンダイアローグ(開かれた対話)が生まれたフィンランド西ラップランド。この町にある専門学校の先生たちが工夫する生徒たちのこころのケアについて前回に引き続いてご紹介します。

様々なアイデア

 かつて自殺で亡くなる人の多かった国フィンランドでは、国をあげて様々な対策を行い、今では自殺で亡くなる人が少ない国となっています。それでも若者の自殺が少なくないと現地の人たちは考えているようです。

 私が現地に行ったときには図書館などにハグカードが置かれていました。こころがつらかったりさみしかったりしたときに誰かにハグ(抱きしめること)をしてほしい、その意思表示ができるメッセージカードです。私個人もこころがとても震えていた時に先輩の精神科医や仲間がハグをしてくれたことがありました。ハグに慣れない日本人の私にとってもこころが包まれるような、子どもになったような感覚になったのを覚えています。

 また、フィンランドの人たちはどちらかというと自分のことをあまり話せない、誰かに相談することは苦手だといいます。そこで、様々な場所で「声が出せない子どもたちがいます」といった内容のポスターも貼られていました。

 その他にも、日照時間が少ないことへの対策やインターネットでの相談機会の増加など、いくつものアイデアが実行されています。

席を選んでもらう

 前回ご紹介した専門学校のスクールナースたちは、話を聴くための工夫として座る位置について話をしてくれました。
 「部屋に生徒が入ってきたとき、生徒は緊張しています」
 緊張していたとしたら、話したいことを話せないかもしれません。
 「先生が偉くて生徒は先生の下、そういう上下関係は話したいことを話せなくします」

 これは先生と生徒の関係性についてだけでなく、医師患者関係や親子関係などの上下関係が生まれやすい状況下でも起こるかもしれません。
 「生徒が相談室に入ってきたら、生徒に席を選んでもらいます」
 先生の席と机があり、その机の対面に椅子が置かれているといった部屋。

 「先生と生徒の関係性にはどうしても上下関係が生まれてしまいます。だから、あえて生徒に席を選ぶという主導権をもってもらいます」

 人間同士がいかに対等になろうとしても簡単になれるものではありません。もともと上下関係があり、下の位置にいると感じている人が話をしているときに上の位置にいることになっている人が何か思ったことを話したとしたら、それは助言や指示、教育のような言葉になってしまうかもしれません。人の話を聴くときは上の立場から発せられるような考えや言葉はめったに持たないほうがいいとされています。助言などはその人の行動や考えの背景を否定したことと同じ意味になってしまうこともあり、その人の助けにならないか、それどころかその人を傷つけてしまうこともありえます。

話し手が話したいことを話せているだろうか?

 先生は生徒の話をじっと聴きます。先生が話をするときは生徒と対等の立ち位置で考えを話します。先生の言葉からは、「それはこうじゃないかな」とか「そんなことはしないほうがいいと思う」などの解釈に基づいたものは消え、言葉は「もう少し教えてくれる?」とか「それはこういう意味?」というように、より相手を理解しようとするものとなるでしょう。

 解釈されたという感覚は「決めつけられた」と思うことにつながるかもしれません。悩みを抱えているときにはその背景や理由がたくさんあるはずで、助言というものは相手の考えをこうだと決めてからでなければ出てこないものです。

 助言を聴く側の「聴く準備」も必要です。聴く準備は、自分のことをちゃんと理解してもらえたと思えることを助けるでしょう。

 そしてまた、自分の思っていることを表現しきることは難しいことです。話し手が話している内容から話し手の考えを理解しきることはできません。助言などが相手にとって役立つものになるのはとても難しいことで、互いに理解し合えるための時間が必要です。聴き手が最初にできることは、相手が話したいことを話せているかに関心を持つことだと言われています。

輪になって座る

 専門学校の先生たちは、対等の関係性の中でどうしたら生徒の話を聴くことができるかについて、ケロプダス病院のオープンダイアローグのスタイルが参考になったといいます。

 ケロプダス病院の医療スタッフは相談者たちを相談の部屋に招くときに、座る席を相談者たちに選んでもらいます。席は円になっていて、どこの座る位置が一番偉いといったような上下関係や順位がつけられないようになっています。医療職と相談者が対等の立場になるための工夫の一つです。

スタッフ同士の中でも職種による上下関係をやめる

 医師が一番偉いとか、看護師がどうだとか、スタッフ間にある序列をなくす努力もし続けているとのことでした。ケロプダス病院の看護師の一人は、
 「医師が看護師にコーヒーを入れるということよ」
 と話していました。このことは職種で上下関係があることがなくなるという意味であり、上の立場である〇〇先生が看護師の〇〇さんにコーヒーを入れてねぎらうといったような職種による上下関係が存在したまま行われるものではありません。先生という肩書がなくなって一人の人間として、もう一人の人間との対等の関係性が存在するということになります。

 同様に医療スタッフと患者さんとの関係性の中でも上下関係のない相談スタイルが目指されています。相談者にとっては話したいことが話しやすくなるための取り組みです。話したいことを話すことを促し、話したいことを話し切ることを手伝う。自分の中でうまく言葉にならなかった様々なものが言葉になったと感じ、それを理解してもらえたと感じたとき、その人の中で何かが進みます。また理解した側にとっても誤解や思い込みが解けることで思いや考えが進む助けになるでしょう。そのことは相談者本人に関わる周りの人たちにとっても助けになっていくでしょう。

 助言というものを聴く準備は、このとき整うのかもしれません。

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森川 すいめい

精神科医、しんきゅう

 1973年、東京都豊島区生まれ。二つのクリニックにて訪問診療や外来診療を行う。2003年にホームレス状態にある人を支援する「TENOHASI(てのはし)を立ち上げ、現在は理事として東京・池袋で炊き出しや医療相談なども行っている。10年、認定NPO法人「世界の医療団」ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師、13年同法人理事に就任。一般社団法人つくろい東京ファンド理事。オープンダイアローグ(OD)国際トレーナー養成コース2期生。著書に、障害をもつホームレスの現実について書いた「漂流老人ホームレス社会」(朝日文庫)、自殺希少地域での旅の出来事を記録した「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」(青土社)などがある。

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