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森本昌宏「痛みの医学事典」

コラム

くしゃみをして痛かったら要注意…突然訪れる「魔女の一撃」=腰椎椎間板ヘルニア

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 「ギックリ腰」(前回紹介した“魔女の一撃”である)の原因として、さらには40歳を過ぎた中年以上の慢性的な腰痛の原因として最も多いのが、「腰椎椎間板ヘルニア」である。

 腰椎椎間板ヘルニアの初期には、顔を洗っている時や 前屈(まえかが) みで作業している時に痛みを感じたり、寒い日に痛みを増したりする。そして、ある日突然やってくる魔女の一撃(発作)の後、次第に慢性の痛みに移行する。

  (せき) やくしゃみによって、腰から下肢(脚)へと痛みが広がるようであれば要注意である。わが国では、100万人以上の患者さんがいると推計されている。

骨の間でクッションの役目を担う椎間板

 私の後輩のS医師は48歳。バイクを繰ってのツーリングが趣味である。それがある日、「腰が痛くてバイクにまたがれない。右の足もしびれていて……」と、外来にトボトボやってきた。

 「あのなあ、バイク? ええかげんにせえよなあ」と毒づきながら診察を進めた結果、見事な腰椎椎間板ヘルニアが見つかった、やっぱりなあ。

 椎間板は、背骨を形作っているひとつひとつの骨(椎骨の椎体)の間にあって、クッションの役目を担っている。この椎間板は、水分を多く含む髄核(いわゆる“芯”であり、ゼラチンのようなプロテオグリカンを含んでいる)と、それを取り囲む線維輪( 強靱(きょうじん)膠原(こうげん) 線維が輪状に重なっている)から成り立っているが、年齢を増すに連れ、髄核の水分量が減少し、線維輪に亀裂が生じるようになる。この線維輪の裂け目から髄核がふくらんだり、飛び出したりする状態がヘルニアである。

「かかと歩きが困難」なケースと「つま先歩きができない」ケース

 髄核は主として 後外側(こうがいそく) に向けてふくらむ。これが近くを走る神経根(主として知覚を伝える神経線維が束となっている部位。「 後根(こうこん) 」と呼ぶ)を圧迫して、腰痛だけではなく 坐骨(ざこつ) 神経痛=sciatica( 臀部(でんぶ) ~下肢へ広がる痛み)やしびれを引き起こす。ちなみに、このsciaticaとは、シェークスピアが戯曲「アテネのタイモン」で用いた造語であり、臀部を指すギリシャ語に由来している。

 腰の骨(腰椎)は五つの椎骨からなっており、上方の胸の骨(胸椎)、下方の骨盤の中央にある仙骨(仙椎)とつながっている。腰椎椎間板ヘルニアのおよそ95%は第4番目と第5番目の腰椎の間、ないしは第5腰椎と仙椎の間で起きる。前者では第5腰神経の神経根が圧迫を受け、痛みに加え、ふくらはぎの外側~足の甲~足の親指と人さし指、中指にかけてしびれ、かかとだけで歩くことが難しくなる。後者では第1仙骨神経が圧迫されて、かかと~足の外側~足の薬指と小指にかけてしびれ、つま先歩きができなくなることが多い。

 頻度は低いものの、第1と第2腰椎の間、第2と第3腰椎の間で起こったヘルニアは、症状が激しく、直腸 膀胱(ぼうこう) 障害(自力での排尿、排便が困難となる)を伴うこともある。その他の部位であっても、髄核が中央へ向けてふくらみ、突出するケースでは、脊髄(この部位の脊髄は「馬のしっぽ」のようになっており、「 馬尾(ばび) 神経」と呼ぶ)を圧迫して直腸膀胱障害などを生じる。これらのことから、痛みやしびれがある場所や、 (けん) 反射の減弱、 萎縮(いしゅく) を起こした筋肉の種類によって、ヘルニアの部位を推測することができる。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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