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港町ヨコハマの近現代を探る~神奈川県立歴史博物館(横浜市)
横浜市の中心部、地下鉄・みなとみらい線の馬車道駅から一歩地上に出ると、目の前には、その壮観に圧倒される建物があります。石造3階建て建物の上部に巨大なドームが鎮座する建築物……それが旧横浜正金銀行本店本館、現在の神奈川県立歴史博物館です。周りをオフィスビルやマンションに囲まれる中で、この建物の存在感はひときわ異彩を放ち、写真を撮る人、スケッチをする人と、様々な光景が見られます。ここに古代から中世、近世、幕末の横浜開港、関東大震災を経て現代まで、神奈川県の歴史をたどれる展示品の数々があると聞いて、訪ねてみました。
旧横浜正金銀行本店本館から魅力あふれる博物館へ

存在感がひときわ異彩を放つ神奈川県立歴史博物館
案内してくれたのは、武田周一郎学芸員です。横浜正金銀行は、外国貿易の決済業務や外国為替業務を専門に扱う銀行として、1880年(明治13年)に開業しました。後の東京銀行(現在は三菱UFJ銀行)です。この本館の建物は、1904年(明治37年)に本店として建設された地上3階、地下1階の建築物で、正面の巨大なドームが威厳と権威を表しています。
国の重要文化財・史跡に指定されている近代日本を代表する建築物の一つで、関東大震災で被災しましたが、再建されて戦後まで銀行として使用されていました。1967年(昭和42年)にドームが復元され、神奈川県立博物館となり、1995年(平成7年)からは県立歴史博物館としてリニューアルオープンしました。建物それ自体が、近代日本の歩みといえるもので、見ていて時間がたつのを忘れるほど、魅力にあふれた建造物です。
関東大震災と大空襲で焼け野原 生き残った建物とよみがえる街
古代、中世、近世の展示は非常に魅力的ですが(特に、中世の鎌倉時代の様々な史料はこの博物館ならではのものでしょう)、「現代」のコーナーに急ぎましょう。武田学芸員は「関東大震災以降を、当館では現代という位置づけにしています」と話します。幕末の開港後、横浜は貿易港として飛躍的な発展を遂げましたが、関東大震災で壊滅的な被害を受けます。

関東大震災で壊滅的な被害を受けた横浜の市街地
当時の市街地の様子=写真=を見ると、被災して焼け野原になった横浜の姿が写し出されています。思わず言葉を失うほどの被害。この横浜正金銀行の建物も例外ではなく、屋上のドームは焼失しましたが、倒壊は免れ、武田学芸員いわく「焼け野原の中の数少ない生き残りの建物」ということです。この建築物の価値が再確認できます。

庶民に入り込んだモダンな生活をうかがわせる電気扇風機
震災後、横浜は不死鳥のようによみがえります。モダンな生活が庶民の中に入り込み、帽子や電気扇風機などの展示品から当時の面影をしのぶことができます。1931年(昭和6年)の東京地方電気鉄道一覧図を見ると、東京から神奈川県方面に延びた鉄道網の様子が分かり、現在に至る神奈川県の交通網の骨格を形作った原型が、ここからうかがうことができます。神奈川県は東京のベッドタウンの一面もあり、こうした交通網の発達によって街が形成され、人口も増えていきました。

軍用かばんや陸軍少尉の制服なども展示
戦時中のコーナーに足を踏み入れてみましょう。昭和10年代以降です。神奈川県には、横須賀の海軍、相模原の陸軍などの重要な拠点があり、軍都の側面も持っていた、というのが、武田学芸員の説明です。軍用かばん、水筒、食器、陸軍少尉制服などが展示されています。そして1945年(昭和20年)5月には、横浜大空襲があり、横浜は再び焼け野原となります。防空頭巾や焼夷弾の展示から、その悲惨な戦争の空気を感じられます。
「関東大震災、横浜空襲と2度にわたって焼け野原になったのが横浜ですが、それでもそのたびに復興して、港町として発展していったのです」という説明からは、どんな境遇にあっても、たくましく生き抜いていく庶民の底力のようなものが伝わってきます。
戦後の暮らし伝える展示品 真空管ラジオ、手回し式映写機、テレビ……

(左)昭和20年代の手回し式映写機(中)昭和30年代のテレビ(右)地下に残る旧銀行時代の金庫
戦後、横浜を中心に占領軍が入ってきます。今でも、横須賀をはじめとする県内各地に米軍の基地などがあるのは、その名残です。戦後の暮らしを感じられる展示品として、真空管ラジオやテレビ(昭和30年代)、手回し式映写機(昭和20年代後半)などがあります。高度成長期の1964年(昭和39年)の東京オリンピックでは、神奈川県内で、江の島のヨットなど、四つの競技が開催され、県民も大いに盛り上がったと説明にあります。
武田学芸員の特別の案内で屋上に上がり、ドームを見学しました。ドームは関東大震災で焼けた後、そのままになっていましたが、1967年(昭和42年)に復元工事が行われ、往時の威容を回復しました。その内部は空洞ですが、天井の高さには驚かされます。そして地下の旧銀行時代の金庫も見せてもらいました。現在は収蔵品を入れていますが、かつては銀行の堅ろうな金庫として使われていたことが分かり、その迫力には改めて敬意を表したくなります。
博物館自体が、文化財としての価値を持つという魅力あふれる神奈川県立歴史博物館に、一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。
(塩崎 淳一郎)
神奈川県立歴史博物館
【所在地】横浜市中区南仲通5-60
【電話】045-201-0926
【アクセス】みなとみらい線「馬車道駅」から徒歩1分、市営地下鉄「関内駅」から徒歩5分、JR「桜木町駅」「関内駅」から徒歩8分
【開館時間】午前9時30分から午後5時(入館は午後4時30分まで)
【休館日】毎週月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
【観覧料】20歳以上300円、20歳未満・学生200円、高校生・65歳以上100円、中学生以下、障害者手帳をお持ちの方は無料
【ホームページ】http://ch.kanagawa-museum.jp/
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