精子に隠された「不都合な真実」
医療・健康・介護のコラム
精子貯金のすすめ 凍結保存は「我が子を千尋の谷に突き落とす方式」
不妊治療の限界 精子提供という選択肢
しばらく前まで、非配偶者間の生殖補助医療と言えば精子提供しかありませんでした。もともと、精子は体外で扱えるからです。ところが、卵子も体外に取り出し、受精卵にして子宮に戻すことが技術的に可能になると、精子、卵子、子宮それぞれについて、配偶者のものか、非配偶者のものか、選ぶ余地が生まれ、複雑な組み合わせが生じました。
すでに卵子については、様々な理由で自分の卵子では妊娠が困難になった女性への第三者からの卵子提供が広がってきています。一方、精子の場合、1匹でもいれば顕微授精ができるので、ほとんどの場合、精子提供は避けられるというイメージが定着しています。さらに、誰が遺伝上の父親なのかという出自を知る権利と、精子提供者の情報秘匿の対立といった倫理的問題などで、精子提供の実施には近年、強い逆風が吹いています。
しかし、この連載で繰り返し述べてきたことですが、顕微授精を含めたすべての生殖補助医療は、精子の「質」の問題への対処には限界があります。精子の精密検査が普及すると、現在の基準では「良好」とされている精子に様々な異常が見つかり、それらが治療困難なものである場合、その男性は突然、女性を妊娠させられない側に「転落」してしまうのです。
極論すれば、精子濃度が1億匹/㎖と濃く、運動率(元気な精子の割合)が80%と高い、見た目の良い精液であっても、治療を断念しなければならないケースが出てきます。それでも子どもを望むなら、選択肢の一つとして、精子提供を考慮しなくてはなりません。幅広い論議が必要になります。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)
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