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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

失明よりも失望が問題…処方はなにも医学的なものとは限らない

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失明よりも失望が問題…処方はなにも医学的なものとは限らない

 障害者の「害」という字には負のイメージがあるから「障がい」と表記すべきだとの意見があります。また、視覚障害者に対して、目が悪くない人という意味で「晴眼者」という用語が使われますが、私はこちらの方が差別を助長するような語感で嫌いです。

 法律上の視覚障害者も、視機能低下のため日常生活に不都合が生ずる人々も「ロービジョン者」とする最近の傾向は、一般の人がより身近な問題と感じられるという点でも、妥当な用語だと思います。

 しかし、表記を変えたところで、心の中の差別感がなくならなければ少しも意味はありません。

 差別とは、おそらく、偏見差別を受ける立場に置かれた人を自らと同じ立場に置きたくないという心から生まれてくるものでしょう。逆に見れば、自らは差別されるような状態にはなりたくないという気持ちが、その底にはあるのです。

 それは、その状態が暗いから、つらいから、容易に脱しえないから、という漠然としたイメージや不安につながっているからではないでしょうか。

 いかに医学が進歩しているといっても、ロービジョン者をただちになくすことはできません。いつあなたに回復不能なロービジョンが生じるかわからないというのが、現実なのです。

 だとすれば、差別などしないで、自分にも起こるかもしれないという身近な問題として、一緒に考えておこうではありませんか。

 このコラムで、前々回は「ロービジョンケア」に関する日本臨床眼科学会の教育プログラムの様子、前回は神戸市にあるビジョンパークの訪問記を書きました。そこで、両者に共通する主張があったことに気付きました。

 それは、「失明よりも失望が問題」だということです。

 前者では、医学的治療によって改善させることに限界がきた例や、進行性の疾患を持つ患者に対して、医療側の姿勢は「失明です、終わりです」と失望させるのではなく、「回復はしないけれど」としながら、次の処方を示さなければいけないという主張がありました。

 「目が見えなくなったら、何もできなくなる」「人から特別な目で見られる」といった、漠然とした恐怖や不安が、どうも視覚障害という言葉にこびりついたイメージのようにも思えるのです。

 ビジョンパークにあった考え方は、あえて極端に言えば、「見えなくたって、なんてことはない」という前向きでプラス思考の処方箋を出すことができないかということでした。 出せれば、恐怖や不安は半減することでしょう。

 視覚は乏しくても、脳がある、健康な肉体がある。多彩な支援機器や、福祉政策がある。処方はなにも医学的なものとは限りません。そういう情報や考え方を処方すれば、世のイメージは変わってくるはずです。

 かつて国立障害者リハビリテーションセンター病院(国リハ)に眼科診療部長として勤務し、今はビジョンパークにも深く関わっている 仲泊(なかどまり)(さとし) 医師は、両者の姿勢の違いを以下のように説明してくれました。

 「国リハは経済的にも困窮する最重症の障害者をぎりぎりのところで救済しようというスタンス、パークのほうは障害者を健常者のほうに(技量を)持ち上げ、近づけてゆこうとする方向です。どちらも重要です」

 前者は古典的だが必須、後者はロービジョン者を失望させないための新たな処方箋が出せる進んだ考えだと思いました。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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