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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

自然には解消されない医師の地域偏在 シニア医師の第二の人生を医師不足地域で

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NPOがパネルディスカッション

 退職年齢を迎える医師が第二の人生を送る再就職先として、医師不足に悩む地域の医療機関を紹介、あっせんし、豊富な経験を地域活性化のために生かしてもらおう――。「医師のセカンドキャリアと地域医療を支えるネットワーク」づくりに取り組むNPO「全世代」が11月9日、東京都内で「シニア医師のパワーで地域活性化を!」と題したパネルディスカッションを開いた。同NPOや病院団体、厚生労働省のほか筆者も加わり、医師の地域偏在を解消するための複合的な取り組みの必要性などについて意見を交わした。

趣味を楽しみつつ、週2日勤務なども

 ネットワークづくりには、医師会や病院団体の代表などが今年初めから会合を重ね、6月に事業の概要をまとめている。( 7月3日付 まるごと医療参照

パネルディスカッションで話す参加者(11月9日、早稲田大学で)=NPO全世代提供

パネルディスカッションで話す参加者(11月9日、早稲田大学で)=NPO全世代提供

 この日のパネルディスカッションではまず、同NPO理事で中心的に進めてきた医師の内田健夫氏が、事業の概略について紹介。地方の医師不足、偏在解消には、国や自治体、病院などによる様々な取り組みが進められているが、実際の現場感覚ではまだまだ解決にはつながっていないと述べた。そのうえで、「新設医大」の医師が定年世代を迎えて退職医師の倍増が見込まれることから、タイミング的もいいことを説明した。

 退職する医師が地域で趣味を楽しみながら、例えば週2日勤務などで働くといった、柔軟な働き方も考えられるとした。地域医療や医師の働き方に精通したコーディネーターがあっせんの調整にあたることや、地域の医療機関側にも医師の多様な勤務形態の受け入れを提案したいことなどを説明した。

マッチングシステムを構築へ

 また、具体的な事業計画の策定などに携わっている東京医科歯科大学非常勤講師の杉村正樹氏は、12月にはあっせんに必要な人材紹介業の免許を取得できる見通しで、目安として2020年度には10人程度の成立を目指したいと説明。インターネットでのマッチングのシステムを構築するなどして、3年目には100人程度を成立させて社会的なインパクトを持って地域医療に貢献したいとの計画が披露された。

病院側はわらをもすがる思い。条件の調整には苦労も

 ネットワークづくりの協議に参加している病院団体のひとつ、全国自治体病院協議会会長の小熊豊氏は、2005年に開始した同協議会と全国国民健康保険診療施設協議会の医師求人求職支援センターの取り組みについて紹介した。18年までに約400人のあっせんが成立し、4割以上が離島や山村、過疎地の医療機関だった。当初は無料だったが、現在は常勤、非常勤などの場合に応じて成立した病院から費用負担を求めている。医師不足に悩む地方の病院側からは「わらをもすがる思い」との声が上がる一方で、医師側の勤務先の希望は都市部が多く、両者の間を取り持つのはかなり苦労が多い実情にも触れた。

2036年をめどに対策推進 都道府県間を超えた派遣システムも検討

 厚生労働省地域医療計画課長の鈴木健彦氏は、2036年を目標として、医師の需給などにかかわる医師偏在対策、人口減が進む中で地域の病院のあり方を考える地域医療構想、そして残業の年間上限を960時間とする医師の働き方改革の三つの方策が、並行して進められていることを説明した。具体的には、各都道府県が今年度中に医師確保計画を策定して来年度から実施されることや、都道府県内での不足地域へ医師を派遣調整する取り組みに加え、予算要求中の施策として都道府県間を超えた医師派遣のマッチングシステムの必要性についても述べた。

複合的な対策の推進を

 また、パネリストの一人として参加した筆者からは、医療現場の取材を通じて、都市部の基幹病院で、がんの手術などに従事していた外科医が、「最後は古里の医療に貢献したい」と地方に移り、訪問診療に取り組んでいる事例や、医師不足から統合・合併に至った病院での医師確保の困難さ、地方では基幹病院の医師不足に加えて診療所を継ぐ医師がいないといった問題を提示。2008年に読売新聞が発表した医療改革提言の内容も紹介しつつ、医師不足・偏在の解消には、様々な対策を組み合わせて実施していくことが重要であり、シニア医師のセカンドキャリアを地域に生かそうという今回の取り組みはその一助として期待が大きいと述べた。

大目標に向かって 複合的な取り組みを

 フロアの参加者を交えたディスカッションでは、ネットワークで求職側の医師と求人側の医療機関をマッチングする具体的な方法や費用負担などについての質問や、再編検討の対象に挙げられた公立・公的病院の話題など、幅広い問題について議論された。

 パネルディスカッションの進行を務めた全世代代表理事でJCHO(地域医療機能推進機構)理事長の尾身茂氏は、「日本の医療の仕組みは、保険の診療報酬点数の調整など、微調整においては世界一である反面、問題の本質の解決へ大きな目標を掲げてそこへ向かって進んでいく手法をとらないのが課題だ」と指摘。「医師の偏在解消は医療界に任せろということで従来やってきたが、なかなかできなかった。鈴木課長から、都道府県の枠を超えた取り組みが説明されたことをとても心強く思うし、エールを送りたい。地域のベッド数をどうするかだけではなく、そこにどう医師を確保するかが問題で、複合的な取り組みを進めることが必要だ」などと結び、医師偏在対策の重要性を改めて強く訴えた。(田村良彦 読売新聞専門委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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1件 のコメント

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医療過疎科と地域の複合的な問題を読み解く

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

不人気な科や施設を巡る問題は悩ましいですね。 特に文化や歴史が独特な科や施設は大変です。 医療過疎地で起きた事件とか不人気科の超長時間勤務の撤退...

不人気な科や施設を巡る問題は悩ましいですね。
特に文化や歴史が独特な科や施設は大変です。

医療過疎地で起きた事件とか不人気科の超長時間勤務の撤退を自治体が認めないニュースなんか見ていれば、少々の条件くらいでは行きたくないと思いますよね。
また、都心部でないと不利な専門医制度も問題で、資格を取り終わった医師と取る前の医師の遠回りは意味が違います。

医療に限らず、東京一極集中は、トラブルの時に引っ越しがしやすく、新幹線無しでも1-2時間に東京駅やその周辺にアクセスできるというのがミソなので、逆の発想で、専門医制度の問題を整理し、新幹線や特急の駅付近にセンター化病院やサポートシステムの施設を立ち上げてしまえば、ある程度解決すると思います。

救済可能な医療過疎地域さえ現実を見ずに「突撃命令」ばかり繰り返せば、戦死者と脱走兵だらけになります。
遠隔診断の普及もそうですが、それをしたくない人が利権と権利を持っていて、進まないので、本当に問題がややこしいのだと思います。

あるいは、様々な解決策を募集する方が、新聞社のプラットフォーム機能として発展するかもしれません。
今は動かなくても未来が。

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