「続・健康になりたきゃ武道を習え!」 山口博弥
医療・健康・介護のコラム
空手を長く続けるには休む勇気も大切 体の故障は神様からのメッセージ
「養生を学ぶ」「焦る気持ちを抑える」……先輩の助言
この決断をするにあたり、上田さんは道場の先輩たちから助言をたくさんもらった。
「養生を学ぶ」
「焦る気持ちを抑える」
「長い目で見て付き合う」
「予防の大切さ」
「無理せず休む決断」
それぞれの先輩たちの言葉が、胸に深くしみた。
上田さんは言う。
「心肺機能の向上、筋肉の増加、身体の引き締まり、柔軟性の向上、気力・胆力の増強などなど、武道で健康になるのは間違いないのですが、同時に、気づかず酷使してしまう関節や筋肉は、しっかりケアしながら続けないとダメですね。これからできる限り長く、空手と付き合っていきたいですから」
筆者(山口)も、まったくその通りだと思う。
10代や20代と違い、40代以上になると次第に無理がきかなくなる。故障も増える。若いころみたいに思うように体が動かなくなり、疲労やけがから回復する時間もかかるようになる。
そうなったら、武道を稽古するのがつまらなくなる?
そんなことは決してないのが、武道の素晴らしいところだ。
たとえば空手で、相手と自由に突き蹴りを出して戦う「自由組手」が大好きで、情熱を傾けてガンガンやってきた人は、自分の体力的な衰えや回復の遅さに、寂しさを感じることもあるだろう。
年齢や心身の状態に応じた修行の仕方がある
しかし、体力が衰えたら衰えたなりの戦い方がある。豊富な経験で磨いてきた技術と感覚、頭脳で、若い相手に勝てることもある。組手を卒業し、「型」の上達におもしろさを見いだすこともできる。あるいは、護身術としての技を磨くのも悪くない。もっと言えば、基本の突きだけをひたすら繰り返す。それでもいいのだ。中段突きを徹底的に磨き、極めれば、それは禅の境地に近い何かが得られるかもしれない。
このように空手には、年齢や、その時々の心身の状態に応じた修行の仕方がある。一生続けられるのが空手、武道なのである。
だからこそ、上田さんの先輩たちが助言したように、けがや病気の時は、思い切って休む。焦る気持ちを抑えて、養生した方がいいのだ。休む勇気を持つ、と言ってもいい。
膝の故障は、彼女が「できる限り長く、空手と付き合って」いくための、神様のメッセージなのかもしれない。
「恵比寿の演武には出ず、昇級審査も受けない」と決めた後、上田さんは整形外科でMRI(磁気共鳴画像)検査を受け、10月下旬に結果が分かった。
診断は、「外側半月(板)損傷(水平断裂)」。膝関節の外側にある「半月板」という軟骨に似た組織が傷ついていたのだ。
無理せず休む 空手との「大人の付き合い方」

足の痛みを抑えて型の稽古に励む上田さん(9月下旬、代官山道場で)
ただの炎症かと考えていただけにショックだった。しかし40代、50代にもなると、これといったアクシデントがなくても、半月板がダメージを受けているケースは多いという。
専門の医師2人に相談し、見解を聞き、自分の症状や状況と照らし合わせた結果、「無理せず、いたわりながら様子を見る」ことにした。
右膝に違和感が生じてから約2か月が 経 った。両膝にサポーターをつけ、膝にかかる負荷を減らし、 大腿 四頭筋(太ももの前の筋肉)を鍛える運動を続けていたら、日常生活の範囲内ではほぼ無理なく動けるようになった。でも、空手の稽古はもう少し症状が落ち着くまで休む。少なくとも年内は休会するつもりだ。
「アラフィフの『大人の女性』として、空手との『大人の付き合い方』を学んだ気がします」
来年にはきっと、代官山道場で上田さんの大きな気合が響いているはずだ。
(上田さんの項は今回で終わり)
(山口博弥 読売新聞編集委員)
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最低限のフィジカルと基礎の先にあるもの
寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受
「相手のサイドバックからボールを奪うにはセンターフォワードの右足を狙う」とかサッカーの素人に言っても、理解不能でしょう。 同じ一般人に理解不能な...
「相手のサイドバックからボールを奪うにはセンターフォワードの右足を狙う」とかサッカーの素人に言っても、理解不能でしょう。
同じ一般人に理解不能なら、「CTの腹水の色から病変の部位を探し当てる」を遂行しろとか言われそうです。
そこにある個人の中の文脈、個対個の文脈、集団の文脈を考えると、常人からすればエスパーにしか見えないことができるということです。
サッカーでも、画像診断でも、どうやって実行フェーズまで体に染み込ませていけるか、仮にAIやITが発達しても、人間としての課題は残るでしょう。
格闘技も基礎ができたら、徐々に、戦術や心理のウエイトが大きくなってくるでしょう。
そのきっかけは、たいてい怪我やスランプです。
そして、そういうロジックや努力は半分共通で、それがスポーツや武道のもう一つの価値です。
僕もいくつかの故障がありますが、膝が一番堪えますね。
他の部位と違って、他の筋肉とかで誤魔化しにくいからかもしれません。
感情と酒量の制御が難しくて、整形外科疾患とメンタルヘルスやQOLについて考えさせられます。
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