しあわせの歯科医療
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インフルエンザ予防にはちゃんとした歯磨きも
今年は、例年より早くインフルエンザの流行が始まりました。みなさん、予防のために何をしていますか。厚生労働省が勧めているのは、日頃からの十分な休養とバランスの良い栄養摂取、ワクチンの接種、手洗い、部屋の加湿、うつさないためのマスク着用などのせきエチケット……。こうした定番の予防法に加え、丁寧なお口の掃除もインフルエンザ予防に役に立つかもしれません。
在宅療養の高齢者のインフルエンザ、口腔ケアで10分の1に
インフルエンザ予防と 口腔 ケアの関係を示した、こんな研究があります。在宅療養の65歳以上の高齢者190人を、「歯科衛生士の口腔ケアと集団指導を週1回実施するグループ」(98人)と「本人と介護者による口腔ケア」(92人)の2グループに分け、2003年9月から冬を挟んだ6か月間、経過を見ました。期間中に10人がインフルエンザを発症しましたが、このうちプロの口腔ケアを受けた前者のグループでは1人だけ。 罹患 率はそれぞれ約1.0%と約9.8%ですから、ざっと10分の1に減らすことができたという結果です。
この研究では、ケアの前後に唾液内の細菌数などの変化も調べていて、プロの口腔ケアが入ったグループでは、口の中の細菌数などが減少することも明らかにしています。高齢者はインフルエンザが重症化しやすいため、取り組んだ研究です。
2006年にこの研究を国内外で発表した阿部修さん(東京・平和歯科医院院長)は言います。「口腔ケアとインフルエンザ予防の関係を示す最初の一歩。口腔ケアでインフルエンザを予防できる可能性が示されたということです。『予防できる』と言い切るためには、もっと多くの人数を対象にした研究で確かめる必要があります」。対象人数が多くなれば、たまたまその集団で起こった偶然などの要素を減らすことができるので、研究の信頼性が高まります。その後、大規模な研究で効果の有無が確かめられたわけではないようで、今のところは予防に役立つ可能性にとどまり、定番のインフルエンザ予防法にお口の掃除は入ってきません。
口の中の細菌は、インフルエンザウイルスの増殖を手助け
とは言え、どうして口の中の細菌を減らすと、ウイルスが原因のインフルエンザを予防できる可能性があるのでしょうか。ウイルスは細菌の10分の1から100分の1の極小の微生物で、細菌とは別のモノです。
日大産婦人科教授だった山本樹生さん(埼玉・春日部市立医療センター院長)は、2010年から5年間、医学部と歯学部の合同研究チームで、インフルエンザウイルスと口や気道の細菌との相互作用や重症化のメカニズムなどについての研究に取り組みました。
その前年の09年に世界的に新型インフルエンザが広がり、毒性が強いウイルスではないかという警戒感から、日本でもマスクが売り切れになるといった騒動がありました。新型インフルエンザへの危機感があり、国から多額の研究費を受けて乗り出した研究です。
山本さんは、「新型や季節性インフルエンザのウイルスを使って、口内細菌との関係を調べる基礎研究でした。口腔内の細菌が、インフルエンザウイルスを増やし、抗インフルエンザ薬を使った場合も、その効果を低下させることが確かめられました」と説明しています。
細菌のノイラミニダーゼもウイルスを拡散
それはこういうことです。インフルエンザウイルスは、ウイルスが持つノイラミニダーゼ(NA)という酵素の働きで増殖、拡散します。タミフルとかリレンザなどの抗インフルエンザ薬は、この酵素の働きを抑えて、つらい症状から回復させる薬で、その作用から「ノイラミニダーゼ阻害薬」と呼ばれています。実は、 歯垢 などの中にある細菌にもこの酵素を出すものがあるのです。
山本さんたちの研究で明らかになったのは、口内のノイラミニダーゼの活性が高い細菌をインフルエンザウイルスに感染した細胞に添加するとウイルス量が増大すること、抗インフルエンザ薬が働いている細胞でも、口内細菌を加えると薬の作用が著しく弱まったことなどです。また、唾液には感染を抑制する物質が含まれていますが、その働きもノイラミニダーゼにより抑えられてしまうこともわかりました。
山本さんは「ウイルスだけではなく、口の中の細菌もノイラミニダーゼを出して、ウイルス感染を広げることが示されました。口腔ケアで細菌数を減らせば、ウイルスの増殖を抑え、インフルエンザの予防や重症化の抑制につながると考えられます」と話しています。
先ほどの阿部さんの研究では、プロの口腔ケアによって、唾液内の細菌数だけではなく、ノイラミニダーゼなどの活性が下がることも示しています。
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