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うんこで救える命がある

コラム

うんこを漏らしてしまった時に知っておきたい病気の話

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うんこが漏れる病気がある

 突然ですが、皆さんはうんこを漏らしたことはありますか? ぼくは小学校1年生の時と高校1年生の時にあります。小学生の時は、全体集会で「先生、トイレに行きたいです」と言えずに、休み時間まで待つことができませんでした。高校生になってからは「潰瘍性大腸炎」という病気を発症し、大腸に炎症があった影響で、突然おなかが痛くなってしまう状態が続きました。東京でJR山手線に乗って、品川駅から池袋駅まで約30分かけて通学していた僕は、すべての駅のどこにトイレがあるかはもちろん、どこが比較的穴場かを熟知するほどに、トイレの位置に精通していました。

 当然、そんな知識を誰かに自慢する機会もなく、時は流れました。そして医師になって、排便に悩みを持つ患者さんをたくさん診察させてもらうようになった今、「山手線内のトイレの位置なら大体、全部分かってます」と私と同じようなことを言ってくる患者さんと出会ったのです。「特に出勤時におなかが痛くなってしまって、だめなんだよね。扉が10分開かない時は、恐怖です」、こう教えてくれた彼についた診断名は「過敏性腸症候群」でした。ストレス等が引き金となって急激な腹痛を引き起こし、トイレに駆け込まないといけないことがある病気です。

 過敏性腸症候群は「機能性消化管疾患」とも言われ、僕のような大腸に炎症を起こす病気がないのにもかかわらず、主にストレス等をきっかけに大腸の機能が異常を起こしてしまう病気のことです。実はストレスは、下痢を引き起こすだけでなく、大腸の動きが悪くしてしまって逆に便秘になる方や、下痢と便秘を反復する混合型と呼ばれる状態になる方もいます。うんこを漏らしたことで悩んでいる皆さんはもちろん、慢性的に便秘を繰り返していたり、下痢と便秘を繰り返してしまう人の中には、過敏性腸症候群が隠れている可能性があります。

過敏性腸症候群とは?

 過敏性腸症候群には「RomeIV」と呼ばれる世界的な診断基準があるので、簡略化して紹介します。

最近の3か月間で、週に1日以上、腹痛や腹部の違和感が繰り返し起こり、次の項目の二つ以上が当てはまること。

  1. 排便すると腹痛や腹部の違和感が改善する
  2. 腹痛等の症状が出る時に、排便の頻度(回数)が増えたり減ったりする
  3. 腹痛等の症状が出る時に、便の性状の変化(硬くなったり柔らかくなったり)を伴う

 過敏性腸症候群の症状は、腹痛あるいは腹部不快感と、それに関連した便秘や下痢があることです。また、うんこをすることで痛みや不快感が取れるという特徴があります。うんこをしてもおなかの痛みが続く場合などは、炎症などの疾患が隠れている可能性がありますので、それはそれで注意が必要です。

 また、社会心理的なストレスで、ますます悪くなるのが特徴とされます。ただ、僕が診てきた患者さんの中にはストレスを生じさせる刺激「ストレス源」に気がついていない方もたくさんいました。中には、よくよく話を聞いてみると「実は、婚約を6か月前にして、その頃から調子が悪い……」というような (よろこ) び事がきっかけになっていることもありました。ストレスは必ずしもうまくいっていないことの中にあるわけではありません。

 下痢や便秘が続いているだけで病院に行くのは、ちょっと大げさかな……とためらうかもしれません。たしかに命に関わるような病気ではないのですが、これまで診察した患者さんの中には、明らかに仕事のパフォーマンス低下につながっている方もいました。症状を放置することで受ける損失はとても大きいと感じています。

こんな懸念があったら

 僕自身が以前、下痢型の過敏性腸症候群に近い症状を持っていたので、自分にあった体験を患者さんに伝えると、「あるある」と非常に納得をしてくれます。例えば、

  • 新幹線や映画館の座席は、通路側が好き。飲み会では常に末席。
  • 10分以上、トイレがない状態にさらされるのは恐怖。
  • トイレのことを考えると、不安で旅行に行きたくなくなる。
  • お店に入ると、無意識のうちにトイレの場所と個数を把握している。

 このような恐怖心や不安感があるのであれば、きっと仕事や生活に支障を来しているのではないでしょうか。

 会議でパフォーマンスが発揮できない、遠距離の出張に行くのがつらい等があれば、それはうんこへの不安が仕事に支障を来している状態です。しっかりと診察を受けて内服治療を行ったり、腸内での吸収がいまいち悪いといわれる食物を避ける「低FODMAP食」等の生活指導を受けたりすることで、うんこへの不安から解放される可能性があります。

 たかが下痢や便秘と思わず、思い当たる点がある方は、消化器内科の先生に相談してみるのはいかがでしょうか。そしてもう一点、もし、うんこを漏らしてしまった後、孤独と不安で押しつぶされそうになっている方へ。あなたは一人じゃない。乗り越えられない不安なんてありません。必ず乗り越えられるので、気軽にご相談ください。

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ishiyousuke_prof

石井洋介(いしい・ようすけ)

 医師、日本うんこ学会会長

 2010年、高知大学卒業。横浜市立市民病院炎症性腸疾患科、厚生労働省医系技官などを歴任。大腸がんなどの知識の普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」を開発。13年には「日本うんこ学会」を設立し、会長に就任。現在は、在宅医療を展開する山手台クリニック院長、秋葉原内科saveクリニック共同代表、ハイズ株式会社SHIP運営代表、一般社団法人高知医療再生機構特任医師。著書に「19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと」(PHP研究所)など。

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