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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

「患者協働の医療」の実現を 11月3日を記念日に

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医療に関わるすべての人がゴールを共有して前進

 医療を形作るのは、患者を含めた医療に関わるすべての立場・職種の人であり、みんなでゴールを共有して共に前進していくことが大切ではないかーー。そんな「患者協働の医療」の実現をうたったイベントが11月3日、東京都内で開かれた。2017年に初めて開いたイベントをきっかけに設立された「患者協働の医療を推進する会」(略称・AMCOP)が主催し、今年で3回目を迎えた。

30年以上にわたる透析治療を通じて

「患者協働の医療」の実現を 11月3日を記念日に

11月3日に東京都内で開かれた「いまこそ、患者協働の医療の実現を!2019」

 代表の 宿(しゅく)野部(のべ) 武志さんは、3歳で慢性腎炎を発病し、18歳から人工透析を始めて透析歴は32年を超える。物心がついた頃からの長い闘病生活を送る中で様々なことを経験するうちに、患者が医療にもっと関わることが医療の進歩に必要ではないかと考えるようになったという。腎臓病・人工透析に関する情報発信や、様々な病気の患者会支援などの活動に取り組んでいる。

 患者協働の医療の意義について宿野部さんは、患者や家族、医療者、社会の三者が、それぞれ幸せになることができる「三方よし」の関係を目指すことだと説明。例えば、患者は病気になっても自分の望む生き方ができることで、医療者は患者が理解して治療を受ける自己管理能力が高まることで、そして社会にとっては無駄のない医療の実現で医療費の削減にもつながることなどで、それぞれが幸せになれると述べた。

製薬会社勤務の頃には見えなかったこと

 この日のイベントでは、2人の演者を基調講演に招いて話を聞いた。そのうちの1人、畑中和義さんは大手製薬企業に長年勤めた後、2014年に「NPO法人 患者中心の医療を共に考え共に実践する協議会」(JPPaC)を設立し、理事長を務める。

 畑中さんは講演の中で、製薬会社に勤務していた当時は、患者に直接接したことがなかったことや患者のために薬を育てるという発想ではなかったという反省や気づきなどから、患者視点で医療を見直そうとJPPaCの活動を始めたと紹介。これまでに、希少難病など様々な病気や障害のある人の話に耳を傾ける勉強会や、患者の意思決定や医療者とのコミュニケーションを考えるシンポジウムなどを重ねてきたという。

 畑中さんは「患者さんからの学び」として、患者には医療者との間をより良くできる力があること、患者は自分の病気の専門家であり、患者の声は医療を変える力があることなどを話した。

患者と医療者はなぜすれ違うのか

 もう1人の基調講演の演者は、「医師アタマ 医師と患者はなぜすれちがうのか?」などの著書でも知られる国立病院機構・東京医療センター総合内科医師の尾藤誠司さん。患者と医師との「対話」の大切さを繰り返し強調した。

 尾藤さんは、医師が「患者のため」だとして一方的に自分の考えを患者に押しつけるパターナリズムと、逆に、治療法の選択を患者に丸投げするような説明的な関係は、対極にあるようで、医師と患者の間に「対話がない」という点で実は似ていると指摘。自分自身についての専門家である患者・当事者と、医療の専門家である医療者が、それぞれ「何が大事で、何が大事ではない」と考えるかは違っているのが当たり前のことで、対立があってこそ対話も生まれ、互いに価値観が異なることを理解することが大切だと述べた。

 そのうえで、患者側が「どうなりたいのか?」「大切なことは何か?」などについて必ずしも言語化できていないことも多いとして、診察室での医師との対話のやりとりの中から浮かび上がってくるものが、患者にとっての最善の決断につながる道ではないかと述べた。さらに、医師との信頼関係はもちろん大事だが、信頼しすぎないことも、新しい対話が生まれてくるためには必要なことだと付け加えた。

小さな一歩でも変えてゆく勇気

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パネルディスカッションで話す(左から)鈴木信行さん、畑中和義さん、尾藤誠司さん、宿野部武志さん、司会進行の吉田智美さん

 基調講演の2人の演者に、宿野部さん、患者と医療者をつなぐ活動に取り組む「患医ねっと」代表の鈴木信行さんが加わったパネルディスカッションでは、イベントの参加者からの質問も交え、約1時間半、患者と医療者の付き合い方などについて話し合った。

 参加者からは「病院に行くと、やはりお医者さんは怖い存在」「だめな患者と思われたくないという気持ちもある」「先生という呼び方だけでも患者は萎縮いしゅくしてしまう」「医師も患者も『さん』付けで呼び合うようにしてはどうか」などの質問や意見が出された。鈴木さんは自分自身の要望を文書にして病院に提出していることを紹介、尾藤さんからは患者の要望を伝えるテンプレートを開発したので活用してほしいとの提案も出された。

 鈴木さんは、「何よりも大切なのは、あしたからの行動をどう変えていくかということ。変わるのは怖いことだし、勇気が必要だけど、小さな一歩でもいいから、踏み出すことができればいい。また1年後に開くこのイベントで、新たな情報共有ができたらいいと思う」と結んだ。

11月3日は、11(いい医療を)3(みんなでつくろう)「患者協働の医療の日」

  この日のイベントでは、代表の宿野部さんから、11月3日を、11(いい医療を)3(みんなでつくろう)「患者協働の医療の日」と制定しようとの宣言がなされた。厚生労働省が、11月を「みんなで医療を考える月間」と定めたことを受けた。AMCOPとして「来年以降も11月の第1日曜日に、患者協働の実現を目指すイベントを継続していきたい」としている。(田村良彦 読売新聞専門委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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パターナリズムは純粋な悪というよりは、医局講座制の時代から、医師も患者も望めば自力でどんどん学んでいける双方向性時代への移行で、悪い部分がクローズアップされている影響もあるでしょう。(実際、最近の本のタイトルはパターナリズムなトレンドに回帰しています。)

わかりやすさや受け容れやすさが最初のとっつきやすさや参加意識を生む反面、医師、専門医でも説明や実行が難しい、コンセンサスのトレンドや新薬の出現などによる高速度進化の医療に対して、マイナスも少なからずあります。
広告の本とか読めばわかりますけど、ワンフレーズからせいぜい3行に集約された要約や売り文句は逆にそれだけのものでしかありありません。

理解や感情に優しいモノばかり見ていては見落とすものも発生します。
その危険性も踏まえて、患者サイドも医療や医療システムの理解に努めるのが大事なのではないかと思います。
むしろ、医師よりも一部の官公庁や企業の方が切り替えも早いかもしれませんね。

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