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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

コラム

「家に帰りたい」と言う乳がん末期の母 「無理だ」と取り乱す息子…どうする?

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 80代女性の乳がん患者。腹膜への転移もあり、下肢(脚)のむくみがひどく、食事がとれなくなってきた。自宅では、ヘルパーの支援を得ながら、一人息子で独身の長男(50歳)、夫(83歳)と3人暮らしだった。患者の希望もあり、症状マネジメントの目的で、緩和ケア病棟に入院した。

 症状の緩和もうまくいき、病棟で行われている音楽療法などにも積極的に参加。入院して3週間くらいたち、息子と夫が「最期をここで迎えられる」とほっとした頃、患者は、病棟の看護師に「こういうのを求めているんじゃないの、これだけじゃ足りないの」と言い出した。よく話を聞いてみると、本人は「家に帰りたい」と思っていた。

 そこで、主治医は本人と家族と話し合いの場を作ったが、息子は「家に帰りたいなんて聞いてなかった。家でみるのは無理」と取り乱し、話し合いにならない。息子は、母親の介護を手伝うため、勤務先に自宅での作業を多くしてもらいながら仕事を続けていた。本人の希望にそって在宅へ移行するなら、そのための支援や調整が必要と思い、主治医は「退院支援看護師」につなぐことにした。

家や地域で暮らせるよう支援

 みなさん、退院支援看護師を知っていますか? ある程度の大きな病院になると、患者と家族が家や地域で暮らすことを支援する連携部門があります。病院によって名称が異なりますが、そのような部門で、退院支援看護師は働いています。早い時期から、患者が「今後どのような療養を望むのか」という意思決定を支援する「退院支援」と、患者の意思を実現するため、患者が必要とする社会保障制度、人材、情報、知識などのあらゆる社会資源を利用できるようにする「退院調整」を担います。

 このケースでは、今後の療養をめぐって患者と家族の意向が食い違い、どのように支援できるか、退院支援看護師も悩みました。

患者は「親子3人で暮らしたい」と言ったが…

 話し合いの翌日、退院支援看護師は、本人と家族それぞれの考えを聞きました。

 息子は、「男2人の家で、母さんの介護をできるわけがない。痛みもとれてきて、ここにいるのが一番じゃないか」と思いのたけを話しました。夫もそれにうなずいていました。

 一方、患者は、「痛みがやわらいで楽になってきた。普通に暮らしたい」と言う。看護師が「普通に暮らすってどういうことですか」とたずねると、「今まで通り、住み慣れた家で親子3人で暮らしたい」。

 この日は、互いの思いを伝え、「改めて、ご本人にとって最も良いことを、みんなで考えていきましょう」と話して、話し合いを終えました。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大准教授(生命倫理分野)、同大公衆衛生大学院兼任准教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講予定(認可申請中)。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。

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