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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

「眼科診療に欠かせないロービジョンケア」とは…

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「眼科診療に欠かせないロービジョンケア」とは…

 日本臨床眼科学会が、さる10月24日から27日まで、国立京都国際会館などで開催されました。新しい知識の吸収や研究発表のため、日本全国の眼科医の半数以上が参加する会で、この会期中は病院、医院で診療している眼科医が一時的に極端に減ってしまう期間でもあります。

 「眼科診療に欠かせないロービジョンケア」という教育セッションは、10年前には考えられなかった多くの関心を集め、眼科医など200人近い参加者がありました。

「ロービジョン」(low vision)とは、法律上の視覚障害だけでなく、視覚に不自由があるために社会生活に何らかの支障がある場合を広く指します。

 眼科医の関心が増大してきているとはいえ、眼科医の本務は診断・治療であり、それを前提として医療機関の人材や設備、また診療報酬制度もできていますから、ロービジョンのケアに関心があってもなかなか踏み込めないのが実情でしょう。

 ある推定値によると、心身に何らかの不自由を抱える人は人口の約20%程度いて、その1割は視覚の障害といわれますから、ケアの対象者はとても多いのです。

 「眼科診療に欠かせないロービジョンケア」の冒頭で発言した千葉大の山本修一教授によると、千葉県には「ロービジョン外来」を 標榜(ひょうぼう) している眼科の医療施設は15軒あまりしかなく、しかも地域に偏りがあるそうです。

 県民600万人のうち、ロービジョン者は10万人を超えると推定されますから、とても十分な体制とはいえません。

 このセッションでは、眼科医が「ロービジョン外来」を始めるにはどうしたらよいかだけでなく、ロービジョン者が活用できる施設、機器、インターネットのサイトやアプリケーションについても取り上げられました。

 6人の講演を聞きながら、私はこうした平時の「ロービジョン外来」も大切だが、と千葉県、福島県など今年の台風19号やその後の豪雨で、被災した人々のことに思いを致しました。

 被災者の中には、当然、障害者や病気を持つ人が一定数いるはずです。

 足が不自由で逃げ遅れて亡くなったというニュースは流れますが、平時でも人口の20%存在する心身に何らかの不自由がある人、2%にのぼるロービジョン者は、どうしているかはわかりません。社会的弱者が被災すれば、後片付けや修理さえままならず、生きる気力や経済力が枯渇しないでしょうか。

 一人暮らしのロービジョン者は言うに及ばず、仮に家族や支援者がいるとしても、緊急時には自分たちのことで精いっぱいとなり、持続的には助けてもらえない事態が生じるでしょう。

 平時のロービジョン外来でさえ不十分となれば、緊急時までは国や自治体、医療機関は想定していないと思われます。

 「100年に1度の豪雨」などと形容されますが、そんな悠長な話ではない現実が毎年どこかで起こっているのが災害国日本の現実です。

 災害国だということを大前提にして、平時はもちろんのこと、災害後の社会的弱者への手当てのために、もっともっと我々の税金を使ってもらえないか、政策予算を抜本的に見直してもらえないかと大げさでなく思います。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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