産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
殴られても離れられない「共依存」の関係、どうすれば……
27歳のメーカー社員、上田秋葉さん(仮称)と25歳の夫、琢磨さん(同)が夫婦で精神科外来に相談に来ました。秋葉さんは眠れず、疲れやすいので内科を受診すると、体に異常はないということで精神科受診を勧められました。「精神科なんて初めてで不安だから」と言って、琢磨さんを説き伏せて一緒に来てもらったそうです。診察室で、琢磨さんは開口一番、「特に問題はないです」。それをさえぎるようにして秋葉さんは訴えます。
気分次第で妻を殴る夫
秋葉さん: 主人はとても良い人なんです。でも、私が何か気にさわることを言った時に、急に人が変わったようになって。
私 : 人が変わったように?
秋葉さん: 私を殴るんです。それも、1発ではなくて、4、5発、続けざまにどつくんです。
琢磨さん: オーバーだな。
秋葉さん: 事実でしょ。
私 : 以前からですか?
秋葉さん: 同棲 時代からです。
私 : デートの時もそうでしたか?
秋葉さん: デートの時は優しかったんですよ。
夫婦でのカウンセリングが必要と考え、次回も二人でカウンセリングを受けてほしいと言いました。
琢磨さん: ひどい暴力なんてふるっていないですよ。
私 : 殴る件は置いておきますから。ぜひ来てくださいね。
琢磨さん: もう来たくない。
私 : 二人のお話をうかがわないとカウンセリングにならないのです。
琢磨さん: 来ないよ。今日も来たくなかったんだ。
診察室から出て行ってしまったので、その後は秋葉さんだけのカウンセリングになりました。
殴られても好きな人
私 : 暴力ですね。
秋葉さん: 「痛いからやめて!」と叫んでも、やめてくれないんです。
私 : ひどいですね。
秋葉さん: 夫は半分意識がなくなったような状態で、ベッドの上でぼう然としているんですが、30分してから、「秋葉ごめん、許してくれよ。殴るつもりなかったんだ」「二度としないから」と涙を流して、謝るんです。その繰り返しです。
(つらい話なのに、うっとりした表情です)
秋葉さん: 殴ったところを、手でさすってくれるんです。
私 : 優しくしてくれるの?
秋葉さん: つい許してしまうんです。抱きしめられて、痛みがなくなっていく。いつかしら、セックスしてしまうんです。そうすると、殴られたことも、何もかも飛んでいってね……。「私、幸せ」と思うんです。
私 : DV(ドメスティック・バイオレンス)について、「殴られても好きな人」という言葉がありますが、その通りですね。今日はここまでにして、次回にしましょう。
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